京都大学は2016年度入試から、学力型AO入試などを学部・学科ごとに実施する「特色入試」を導入した。どんな受験生を求めており、高校生にどのような学習をしてほしいのか。教育や入試を担当する北野正雄理事・副学長に新たな入試に込めたメッセージを聞いた。(聞き手・西健太郎)
きたの・まさお 1952年、京都府生まれ。京都大学工学部卒業、大学院工学研究科修士課程修了。工学博士(京都大学)。京都大学大学院工学研究科教授、工学研究科長・工学部長、国際高等教育院長などを経て2015年から現職(教育・評価・情報担当)。専門は量子エレクトロニクス・量子光学。
(坂田謙撮影)
「なぜ勉強するの?」という高校生へのメッセージ
──どのような狙いから特色入試を導入したのですか。
北野 研究型総合大学である京都大学を志願する高校生には、入試の段階でどの分野を学びたいか、自分の専門を意識してほしいという意図があります。そのために、特色入試は学部・学科ごとに実施しており、応募条件や試験問題を通して研究内容や学習内容を理解してもらえるよう工夫しています。
重視しているのが、高校と大学の勉強をつなぐ「高大接続」です。高校で取り組んできた課題解決型の学習や課外学習などを(出願書類で)報告してもらい、面接で話してもらうことを通して、こうした学習が大学での勉強につながっていると知ってほしい。
各学部・学科の問題には、多少「背伸び」をして、大学に入ってから学ぶことを意識して勉強してほしいというメッセージを込めています。
──「背伸び」とはどのようなことですか。
北野 例えば、理学部の試験は、4時間かけて数学だけを解く。かなりのチャレンジです。高校数学の範囲で解答可能とはいえ、難しい。でも、腕に覚えのある人が志願し、実際に解いている。学部によっては、非常に長い資料を読ませたり、統計資料や新聞記事など、あえて「料理」をしない生の資料を読み込ませたりする問題もある。
特色入試の定員は少ない(16年度は108人)ですが、一般入試を受ける人も特色入試に込めたメッセージを知ったうえで志願してほしいと考え、問題を公開する予定です。特色入試は、京都大学の学びの「ショーケース」の役割があるのです。(編集部注・特色入試のサイトで問題を閲覧できる)
高校生はよく「なぜ今こんな勉強をするのだろう」と言いますが、国語で文章を読むことも、数学で問題を解くのも、すべて大学の勉強につながっていると知れば、やる気が起きますよね。特色入試は、高校生みんなが持っているはずの、チャレンジする気持ちに火をつけることを狙っています。
「科学五輪」など資格は一部見直し
──志願者数(616人)、入学者数(81人)も含め、初年度の手ごたえはどうでしたか。
北野 定員の100%には達しませんでしたが、約8割は入学しましたので、初年度としては十分だと思っています。高校には「意欲、買います」というキャッチフレーズをうたったポスターを送りました。各学部の教員は、高校生の「志」を求めるという私たちの意図をくんで志願してもらえたと話しています。特色入試で入学し、目を輝かせて授業を受けている学生の話も聞きます。
一方で、学部・学科により、(倍率の)高低もありました。(一部の学科の受験資格にあった)「科学五輪」などの基準を緩和し、より多くの人に受けてもらえるようにしました。広報活動にもより力を入れ、(一般入試も含め)「志」をもった志願者をより増やしたいと考えています。
合格最低点ぎりぎりに点数が集中するおかしさ
──特色入試は「選抜からマッチングへ」という目標を掲げています。高校生の大学の選び方にミスマッチがあると感じているのですか。
北野 偏差値に基づいた進路指導が行われている現状があります。偏差値は、学ぶ内容を表しておらず、進路選択の基準にするのは、本来おかしいのです。入試に合格することばかりが目的になると、入学してから目標が持てずに挫折するといった問題が起きかねません。私たちは、(点数による)選抜ではなく、(学部・学科に合うかの)マッチングをしたいと考えています。
──合格者の点数が、ボーダーライン(合格最低点)ぎりぎりに集中すると聞きます。
北野 どの学部でもボーダーラインに集中する。ボーダーぎりぎりで入るのがよいと考えているなら、おかしなことです。学びたいことを基準に学部を選んでいたら、そうはならないはずです。
──高校生には、どのように勉強や高校生活に取り組んでほしいですか。
北野 直接受験の役に立たないことはやらないという考え方がまん延していますが、大学に入ってから、そしてその後の人生を考えれば、受験勉強以外の活動から得られることもたくさんあるはずです。
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の生徒が取り組む課題研究や、クラブ活動や課外活動など、頭を使う作業はいろいろあるはずです。自主的な活動、仲間と協力する活動など、机に向かって問題集を解くのとは違う活動も大事です。
SSHでは、大学の研究と近いことをしています。私たちは、受験を最優先にせず、高校でそういう教育をすることを望ましいと考えており、応援したい。特色入試には、そのことを伝える意図もあります。高大連携活動として、高校生に大学で学んでもらう講座を開いたり、大学院生を高校に派遣して教育活動を支援(学びコーディネーター事業)したりしているのも、そのためです。学びコーディネーターの授業は、年間約1万人の高校生が受講しています。
「話好き」は研究者の資質あり
──京都大学の理念に「対話を根幹とする自学自習」とあります。高校生の勉強にもあてはまりますか。
北野 「自学自習」とは、誰かに言われて勉強するのではなく、「これが面白そう」と自分で見つけて学ぶことです。例えば、図書館を長い時間うろうろして、面白そうな本を見つけられる力も能力のうちです。
「対話」を「話好き」と言い換えれば、高校生に分かりやすいでしょうか。受験勉強だけをしていても対話は生まれない。いろんな人とかかわりを持つことを意識してほしい。高校生が接する大人は親や先生が中心でしょうが、それ以外の大人と話をする機会もつくってほしい。そういう人が周りにいなければ、本を読むことで、疑似的に対話ができます。
アイデアの多くは、人との関係性の中で生まれます。人に話すことで自分の考えがまとまることがありますし、人の発言を聞いてアイデアをもらうこともある。大学の研究でも、研究室には用事が無くても行って、教員と学生の間で、一見無駄と思える話をすることがとても大事なのです。