情報通信技術分野の独創的な技術開発に取り組む人材を支援するプログラム「異能(Inno)vation」(総務省主催)に、中嶌(なかじま)健君(山梨・駿台甲府高校1年)の研究が選ばれた。今年度の「異能vation」には980件の応募があり、中嶌君は最終選考通過者11人のうちの一人。伝書バトを災害時に活用する方法を追求している。 (中田宗孝)
伝書バトは昭和40年代まで、新聞社などで遠隔地からの通信手段に使われていた。中嶌君は、災害時に支援隊が伝書バトを被災地に持ち込み、被害状況や必要物資を記録したマイクロSDをハトに運ばせるという構想を練っている。「昨年の北海道胆振(いぶり)東部地震では、大規模な停電で震源地の情報が(道外に)なかなか伝わらなかったようです。高い帰巣本能を持つハトなら、電力のない被災地の情報を届けられます」
自宅で100羽飼育
自宅では、約100羽のハトを飼育する。スタート地点から所有のハトを放ち、ゴール地点の鳩舎(きゅうしゃ)までのタイムを競う「レースバト」を趣味にする父親が飼い始め、中嶌君も幼少からハトと触れ合ってきた。朝夕の餌やり、鳩舎の掃除は自ら行う。「朝、家からハトを飛ばして〝散歩〟もさせています。ちゃんと家に帰ってくるところがかわいい」
中学の時の課題で、ハトの帰還能力に関する研究を約2年続けた。脚に衛星利用測位システム(GPS)を装着したハトを自宅から離れた場所で放ち、自宅に戻るまでの帰還率や飛行経路を考察。中学でのレースバトに関する研究成果を踏まえて「ハトを災害時に活用する」というアイデアが浮かんだ。
目指すは「100パーセント帰るハト」
今後は「異能vation」から支援を受けながら、研究を進めていく。これまでの検証で、自宅から約50キロ離れた場所から約30分で戻るハト、日を越えて戻るハト、戻ってこないハトがいることが判明している。「戻りが遅かったり帰ってこなかったりするときは『(飛行中に)特異的な動き』をすることが分かっています。ですが、その原因はまだ分かりません」。そこで、ドローンを使い、ハトが帰還しなかった場所の特定、その周囲の地形を調べて原因の究明に挑む予定だ。
本来、レースバトはスピード重視のため「帰還率は安定していない」という。そこで、戦時中に無線代わりに利用された軍用バトのDNAを持つハトを購入して交配させ、帰還能力に優れたハトの数を増やすことも目標に掲げる。「100パーセント帰ってくるハトを育てる。そのハトたちを災害時に役立てたい」