米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が6月12日、シンガポールで会談した。米朝の首脳会談は史上初めてで、両首脳は会談後「シンガポール共同声明」に署名。正恩氏は「朝鮮半島の完全非核化」を約束、トランプ氏は「北朝鮮の安全を確約」し、事実上の金委員長体制の保証をした。声明は「緊張と敵対関係の克服」をうたっており、アジアの秩序が大きく変わる可能性もある。
具体的な手順示さず
トランプ氏は「北朝鮮の非核化プロセスが迅速に始まる」と述べたが、米側が主張してきた「検証可能」「不可逆的」という文言は声明に盛り込まれていない。また、非核化に至る具体的、段階的な手順も明示されておらず、完全な履行には不透明さを残し、今後の交渉に委ねられた課題が多い。
「朝鮮半島の完全非核化」は、これまでの南北会談や米朝協議、日本も加わった6カ国協議で追求され続けてきた問題だが、いまだ実現していない。米朝首脳会談で画期的な進展も期待されたが、道筋は見えないままだ。
日本人拉致問題も提起
トランプ氏は、日本人拉致問題を会談で提起したと明らかにしたが、声明には盛り込まれず、拉致問題が進展したのかどうかも分からないままだ。安倍晋三首相は「私自身が金委員長と向き合い、首脳会談を行わなければならない」として、日朝会談の機会を模索している。
日本政府はトランプ氏の後押しを受けながら北朝鮮側の譲歩を引き出し、拉致被害者の帰国などにつなげたいところだ。日本政府にしてみれば、米国が対北朝鮮関係の改善を最優先して拉致問題が取り残され、日本だけで北朝鮮と交渉しなければならなくなるのが最も警戒するケースだろう。
【memo】朝鮮戦争終結せず 朝鮮半島は第2次大戦後の米ソ対立の中で北緯38度線を境に韓国と北朝鮮に分かれた。1950年6月に北朝鮮軍が38度線を越えて攻め込み、米軍中心の国連軍が韓国を、中国の人民義勇軍が北朝鮮を支援する朝鮮戦争となった。53年7月に休戦協定が結ばれたが、正式にはまだ戦争は終わっておらず、終戦を宣言し平和条約を結ぶことが関係国間の課題となっている。