「政治に関心を持とう」と言われるが、「よくわからない」し、「なんだか遠い世界の話」で、自分事と思えない高校生が多い。政治哲学を研究する宇野重規先生(東京大学教授)に、高校生が政治や社会と向き合うためにはどう行動すればよいか聞いた。(安永美穂)
政治に関心を持つってどういうこと?
―「政党や政治家について知る機会がないし、関心を持ちたくてもどうすればよいかわからない」という声が高校生から上がりました。政治がよくわかっていなくても、参加してもよいのでしょうか?
私は「希望学」の研究にも取り組んでおり、「希望」という感情を社会科学の視点から分析しています。希望学では、希望を“A wish for something to come true by action”、すなわち「何か(something)目的をもって行動(action) することにより実現(come true)していこうとする願望(wish)である」と定義しています。つまり、希望とは「こうなったらいいな」という単なる願望ではなく、実現可能な目標を持ち、アクションを起こすことなのです。
「社会とのつながり」を持つ行動が第一歩
―希望は「アクションを起こす」ことなのですね。
日本の若者は、「自分のような人間が希望を語ってもよいのだろうか」と自信を持てずにいたり、希望を語って周囲からどう見られるのかを気にしすぎたりする人が多いようです。しかし、希望の構成要素の中には「行動する」ことも含まれます。今の自分にできる範囲で人と関わってみたり、意見を表明してみたりして、「自分はこういうことをやりたい」という思いがより明確になる場合もあります。
「政治のことはよくわからない」と思っていても、一票を投じたり、地域の困っている人を助けるといった身近な政治活動に参加したりできます。まずは行動してみて、社会とのつながりを見つけていけるとよいのではないでしょうか。
若い世代で政治は変わる「動くなら今」
―高校生のような若い世代の声は、社会にとってどんな意味を持つと思いますか?
現在の日本の政治は流動化しており、数十万人の票が動けば、政治の風景が大きく変わる状況にあります。つまり、若い世代が声を上げ、団結して行動すれば、政治を大きく変えられる可能性があるのです。
若い世代は問題意識が高く、SNSなどを活用して仲間を増やしていく能力も持っているため、団結した場合に世の中に与える影響力は大きいように思います。
団塊の世代の高齢化が進み、既成政党の支持基盤が揺らいでいる現在は、若い世代の支持が政治を大きく左右するようになっています。高校生の皆さんには「動くなら今!」と伝えたいですね。

自分たちの未来を語り合おう
―高校生に向けて、希望を持って政治や社会と向き合うためのメッセージをお願いします。
希望は「自分たちの未来をこうしたい」「自分はこれがしたい」と考えて行動した結果としてついてくるものなので、今の時点で希望が持てなくても問題ありませんし、「希望を持ちなさい」と強制するものでもありません。ただ、皆さんには自分たちの未来について考えてみてほしいですし、考えを周囲の人と語り合ってみてほしいと思います。
自分の考えを口に出してみると、意外と皆同じようなことで悩んでいるのだと気づくかもしれません。ヒリヒリするような気持ちを共有するだけでも、気が楽になるはずです。そして、話し合う中で、悩みに対する共通の対策を見つけていければ、それはもう立派な「政治」です。
社会にはいろいろな難しい課題がありますが、皆さんが希望を持って未来を語れるようになるのが日本の社会にとっての希望だと思います。ぜひ頑張ってください。
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宇野重規先生
うの・しげき 東京大学社会科学研究所教授。2024年から同研究所長。博士(法学)。東京大学法学部卒業。同大学法学政治学研究科博士課程修了。客員研究員としてフランスやアメリカに滞在した経験もあり、現在は東京大学社会科学研究所で所長を務める。専門は政治思想史、政治哲学。『民主主義とは何か』(講談社現代新書)など著書多数。