全国高校総体(インターハイ)が7月28日から8月20日まで、北信越5県で開催された。今年から総体の正式種目に加わった女子サッカーは、8月4日に長野・松本平広域公園総合球技場で行われた決勝で日ノ本学園(兵庫)が常盤木学園(宮城)を1-0で破り優勝した。途切れることのないスタンドからの応援歌を背に、チーム一丸となってもぎ取った栄冠だ。 (文・写真 東憲吾)
猛暑の松本平に試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた瞬間、日本女子サッカー界に新たな歴史が誕生した。
「終わらない歌を歌おう、日ノ本の勝利のために~」。ザ・ブルーハーツの往年の名曲「終わらない歌」をアレンジした応援歌が鳴り響くグラウンド。勝負を決めたのは、キャプテンのFW川原奈央(3年)=大阪・白鷺中出身=の1発だった。前半24分、MF中井仁美(2年)=奈良・桜井中出身=からパスを受けると、相手DFをかわして放ったシュートが相手ゴールネットを揺さぶり先制点を決めた。結局そのまま日ノ本学園がリードを守り、1-0で見事にインターハイ初代女王の座を手に入れた。
下馬評では常盤木学園がやや有利だったが、「むやみに蹴って相手にボールを渡すのではなく、ボールを大切に、つなげるサッカーを心掛けよう」という上嶋明監督(49)の戦略が的中。終始ボールを支配し、相手に決定的なチャンスを与えることはなかった。
■川原奈央 ヤングなでしこ落選…雪辱のゴール!
総体初代女王を決めるこの決勝。川原にとって、絶対に負けられない試合だった。8月19日に日本で開幕したU20女子W杯。川原は代表(ヤングなでしこ)のメンバー候補に選ばれたものの、本戦出場メンバーからは落選。本戦出場のFWリストには、常盤木学園のエース、道上彩花(3年)=徳島・那賀川中出身=の名前があった。将来の夢はなでしこジャパンと明言する川原にとって、一歩先を進む道上は、現時点で最大のライバル。「やっぱり悔しかったので、道上選手を意識してしまいました。絶対に負けたくなかった」と川原。その気迫がゴールを生んだ。スピードでは負けない自信があるという川原、ライバルを前に悔しさを晴らす決勝ゴールとなった。
■控え選手 応援歌で激闘
忘れてはならないのはスタンドからの大応援。バックスタンドに陣取った試合に出られない選手たちが、有名曲をアレンジした応援ソングを歌いあげ、ホームゲームのような雰囲気をつくり上げた。
決勝点をアシストした中井は「試合中苦しくても、みんなの声が聞こえてくると、負けられないと気合が入る」と言い、キャプテンの川原も「チーム全員で戦っている意識が生まれる。みんなのためにも、と頑張れる」と話す。応援ソングの現在のレパートリーは103曲にものぼる。さすがにハーフタイム中は休むかと思いきや、「もっと歌おうよ」「あれも歌いたい」などと、控え選手は皆が積極的。スタンドで共に闘う応援団の姿に、選手が後押しされたのは間違いない。「終わらない歌を歌おう、日ノ本の勝利のために、終わらない歌を歌おう、最後には笑えるように」。歌は現実となった。
TEAM DATA
1992年創部。現在部員は54人。2001年から11年連続で全日本高校女子選手権に出場を果たし、10年に初優勝を飾った。強豪となった今でも入部時の選考は行わず、初心者でも受け入れている。