1年生から奈良・山辺高校サッカー部のキャプテンを務めている太田凱翔(2年)。昨秋の全国高校サッカー選手権大会(全国選手権)県大会で得点王(9得点)と最優秀選手に輝いた。今後の活躍が期待されている選手だ。(文・写真 白井邦彦)

「田舎で集中できる」あえて奈良の高校へ

中学時代にJリーグ鹿島アントラーズの下部組織(若手選手の育成を目的とした組織)でプレーした経験がある。全国優勝実績がある高校を含め多くの強豪から声がかかっていた。その中で選んだのは、全国選手権に出たことがなかった奈良の山辺高校だった。

小学生の頃に指導を受けていた興津大三監督(山辺高校が提携するサッカー選手育成組織「ボスコヴィラサッカーアカデミー」監督も兼務)を慕い、選んだ形だが、サッカーに専念できる環境も大きな理由だった。

照明付きグラウンドも山辺進学を決めた要因の一つ

「まず人工芝グラウンドが2面ある(1面は照明付き)。その上で、田舎だったのでサッカーに集中できると思った。そして親元を離れての寮生活は、どこにも甘えのない環境だとも感じた。ここならもっと成長できる。悩み抜いた上で、山辺に決めました」

1年生でキャプテン就任、全国へ導く

1年生からキャプテンを務め、2020年の全国選手権県大会では大会最多9ゴールの活躍で山辺を初の全国大会へと導いた。

部としての今後の成績も楽しみだが、「世界で活躍できるストライカー」を目指す太田にとって高校サッカーは一つの通過点だ。

相手よりも早い動きだしを見せる太田凱翔

「日本代表や海外クラブ、日本のクラブユースチームに急に呼ばれても、いつでもプレーができる準備を心がけて練習しています。プロになるだけではなくて、プロで活躍するのが目標ですし、周りから憧れられる選手にならなくてはいけないとも思っています。だから、山辺で練習をしているというより、プロ選手と同じような意識をもって練習しています」

とはいえ、練習や試合で戦うのは主に同じ高校生。高い意識だけでは超えられない壁もある。そんなジレンマを感じていたときに、ドイツ1部の2チームから練習参加の話が舞い込んできた。

パスずれてケンカ、ドイツのプロ意識に衝撃

興津監督の知人であるエージェントを通じ、今年8月に「レバークーゼン」と「シュトゥットガルト」の練習参加に招待された。おぼろげに「フィジカルの強い選手が多い」という認識でドイツへ渡った。だが、実際には「受け手の進行方向に曲がる回転をかけたパスとか、すごく細部にまでこだわっていた。いい意味で予想外だった」と話す。中でも衝撃だったのはプロ意識の高さだった。

ドイツから帰国後、全てのプレーにおいて1段階ギアを上げた

シュトゥットガルトでの練習で、日本ではあまり見かけない光景に息をのんだ。パスワーク時に少しタイミングが合わなかっただけで、2人の選手が取っ組み合いのけんかを始めたからだ。

「ドイツでは、僕と同世代でもプロとしてお金をもらってプレーしている選手がいる。『生活がかかっている』という違いはあると思うけれど、日本ではパスがズレたくらいで胸ぐらをつかんでけんかする場面は見たことがなかった。人生をかけてサッカーをしている。本物のプロ意識を目の当たりにした気がします」

誰かのためにサッカーをする

ドイツで「プロ基準」を体感した太田は、帰国後にプレーや判断のスピードを1段階上げ、その上で今まで以上の精度を求めるようになった。

ドイツで周囲への感謝の気持ちを強めたと話す太田

「ドイツに行ったことで、家族や指導者など多くの人に支えられて自分はサッカーができていると改めて感じました。ドイツ行きをサポートしてくださったエージェントの方もそうです。そういう方々に少しでも恩返しができるように僕はプロで活躍します。『自分のためだけではなく、誰かのためにサッカーをする』この気持ちを持ち続ければ道は必ず開けると信じています」

学校がある日のスケジュール

6:00 8.4キロの山道をランニング

7:00 寮で朝食

8:00 ミーティング

8:20 登校・授業開始

16:00 練習場へ移動

16:30 練習開始

18:00 自主練&クールダウン(その後、寮へ)

19:00 夕食

22:00 消灯・就寝

【一問一答】憧れの選手は「自分自身」

―好きな食べ物は?

肉料理全般と母のオムライスです。

―好きなアーティストは? 

back number(バックナンバー)さん。昔から好き。

―オフの過ごし方は? 

ショッピング。バスで下山できない場合は体育館で自主トレです。

―得意な教科は?

国語、英語です。

―苦手な教科は?

数学です。

―憧れの選手は?

「太田凱翔」です。子どもたちの憧れの存在になりたいので、憧れの選手は自分です。プレーを参考にしているのはセルヒオ・アグエロ選手(バルセロナ)と岡崎慎司選手(カルタヘナ)。

―ルーティンは? 

試合前日に寮の食堂でゆっくりと音楽を聴きながら落ち着くことです。

太田のマストアイテム

・遠藤航(シュトゥットガルト)の本
 ・ミサンガ(ドイツで切れたので、新しいものを探し中)

 

プロフィール

太田凱翔(おおた・かいと)

2004年4月26日生まれ、千葉県習志野市出身。ポジションはフォワード。小学1年生から本格的にサッカーを始める。中学1、2年次は鹿島アントラーズつくばジュニアユース(下部組織)でプレーし、中学3年は地元に戻り習志野市立第四中学校でプレー。「将来は自分のプレースタイルに合った国か、逆にあえて自分が苦手なプレーを求められる国でプレーし弱点をなくしたい」。171センチ67キロ。