昨季のインターハイ王者・前橋育英(群馬)。連覇をかけた今季、黒と黄色の縦じまの「タイガー軍団」を率いるキャプテンは、昨季2年生ながら唯一のレギュラーとして躍動し、今年、U-17日本代表に選ばれたGK雨野颯真(3年)だ。(文・写真 斉藤健仁)
「死ぬこと以外かすり傷」
モットーは「死ぬこと以外はかすり傷」だという雨野は、試合前の円陣で「決勝だから命がけでやっていこう!」と気合を入れた。
しかし、昨季は3年生が中心だったため雨野以外の選手は大きく入れ替わり、春の県大会は準々決勝で敗れていた。今年6月のインターハイ群馬県予選では危なげなく勝ち進んだが、決勝では緊張からか、序盤は初の全国大会出場を狙う健大高崎のテンポのいい攻撃の前に後手に回り、前半26分にPKを献上、先制されてしまう。
それでも前橋育英は「やることは変えないでもう1回やろう」と雨野の言葉で落ち着きを見せる。4分後、すぐにFW佐藤耕太(2年)のゴールで同点に。さらに後半、積極的にワイドから攻撃を仕掛けて4分、10分と立て続けにゴールを奪う。雨野も守備を統率し、それ以上の失点を許さず、3-1で逆転勝利を収めて6連覇を達成した。
「自分たちの代の選手は1~2年生の段階で、全国大会出場のかかった舞台を経験している選手が少ないですが、優勝で終われて自信になったし、次につながる大会になった」
背の高さでキーパーの道へ
ピッチ内外でチームを引っ張る大黒柱の雨野は、小学校入学とともに地元の多摩二小SCでサッカーを始めた。「背がでかかったから」と小学校4年からGKとなる。中学時代は隣の市にある強豪クラブに所属し、世界で活躍する選手を目標に力をつけていき、U-15日本代表候補に選ばれた。
高校は「全国優勝したい!」と親元を離れて、誘われたこともあり、前橋育英に進学した。「寮生活なので、いい意味でサッカーに集中できている」という雨野は2年時から正GKとなり、昨年度はインターハイ優勝、全国高校選手権のベスト8に貢献し、両大会で優秀選手に選ばれる活躍を見せた。
昨年、レギュラー組で唯一の2年生として監督やコーチに怒られることも多かった雨野は、「どんな状況でも自分のプレーを出していけるようになった」とメンタル的な成長を実感している。そして3月、U-17日本代表に選ばれて、初の海外となるアルジェリア遠征にも参加しゲームキャプテンも務めた。
自分のパスでゴールまで
的確な指示と落ち着いた守備が持ち味の雨野だが、U-17日本代表では、GKも攻撃に絡むことが要求され、「もっとキックで(ディフェンスの)裏を狙え」と言われた。GKになって初めて言われた言葉で「自分のサッカー観が覆った」。
その後は、少しずつキック力をつけるためにトレーニングを重ねて、決勝戦でもロングキックで好機を演出した。「自分のパスでゴールまでつながればいい。飛距離が出るようになり良い成果が出たかな」
しかし雨野は、今秋のU-17ワールドカップにつながる、6月のU-17アジアカップの日本代表には選ばれず、「実力不足だった」と肩を落とした。代表のチームメイトだった選手の中にはすでに、Jリーグに出場している選手もいる。A代表を目標とする雨野は「自分は出遅れているので、危機感を持って自分のペースでやっていかないといけない」と言うものの、「まだまだ経験が足りない」と、来春からはJリーグではなく大学に進学する予定だ。
「失点ゼロ」にこだわる
連覇をかけてのぞむインターハイ。キャプテンの雨野は「昨季の大会を経験しているのは自分しかいないので自分が引っ張っていきたい。自分たちはそんなに力があるわけではない。攻撃でも守備でもチームで戦うことを意識したい」。
守備の要であるGKとして「(昨年は)1失点しかしなかった。失点の少ないチームの方が絶対強いと思うので、(失点)ゼロにこだわりたい」と意気込んでいる。「前回大会王者という目で見られると思うが、試合になったら忘れてチャレンジャー精神を持ち続けたい」。「タイガー軍団」のキャプテンが、守備からチームを引っ張って連覇に挑む。
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あまの・そうま
2006年1月15日、東京都生まれ。多摩市立和田中卒、FC杉野ジュニアユース出身。身長184センチ、体重76キロ。好きな教科は体育と英語。リラックス方法はYouTubeを見たり、部活の友人とスマホで「eFootball」などをプレーしたりすること。