東久留米総合高校(東京)男子サッカー部は、これまで全国高校サッカー選手権に3度出場するなど、都立屈指の強豪校だ。6年ぶりの全国高校選手権出場を目指している。約200人の大所帯をどう率いて運営して、練習を重ねているのかについて、主将と監督に聞いた。(文・写真 小野哲史)
200人越えの大所帯、能力別でチーム分け
部員数202人という大所帯。ナイター付きの人工芝グラウンドなど充実した練習環境はあるものの、全員が同じ時間帯にそろって練習するのは難しい。

そこで能力別のA、B、C、1年生のみのチームの計4グループに分かれ、時間帯やオフの曜日をずらして練習している。
2人いる主将の1人、碓井皓士郎さん(3年)は「練習や試合で結果を残せば、上のチームに上がれます。でも、学校生活も含めての部活動なので、日々の授業や生活ができていなければ下のチームに落ちる場合もあります」と話す。もちろん、1年生でも力があれば先輩のチームに加われる。
学年に垣根なく「言いたいことが言える」
もう1人の主将、近藤晴登さん(3年)によれば、今年度のチームは「みんな明るくて、オンでもオフでも学年に関係なく言いたいことを言い合える」のが特徴。加藤悠監督も「例えば、Aチームの選手が練習後に残って、Bチームの公式戦の運営を手伝ったり応援したりしている。素晴らしい光景です」と雰囲気のよさを強調する。
ただ、「例年以上の仲のよさを武器にしたい一方で、甘さにもつながりかねない面もあります。勝負にこだわる厳しさなど、みんなで成長するために、良い意味で仲の良さから脱却したい」とも考えている。
【1日のスケジュール】「ボールのつなぎ」を意識
朝練は、各自が必要だと思うメニューに取り組む。自由参加のため、参加者は毎回十数人ほど。「家が遠いので通学時間がかかる」という碓井さんも、「夜に自分でやった方が効果的」と考える近藤さんも、それほど参加していない。

放課後の全体練習では、ボールのつなぎを磨くためのメニューが多い。私立の強豪校のように体が大きい、脚が速いといった身体的能力が高い選手が少ないため、「体格で劣っていてもしっかりパスでつないで、攻守の切り替えの速さなどで相手を上回れるようにする」(近藤さん)というサッカーを目指す伝統があるからだ。
他には、月曜日がオフのAチームの場合、火曜日は一切ボールを使わず、30分のランニングと筋力トレーニング。水曜日はフィジカルトレーナーのもと、ステップワークや動き方のメニューも入れながら、木曜日から土曜日のボール中心の練習を経て、日曜日の試合を迎える。

全体練習後の自主練習も朝練と同じく自由参加だ。勉強のために早く帰宅する者もいれば、最終下校までグラウンドに残る者もいる。「自主練習と言っても仲間と楽しんでいる場合が多いですが、それも部活動の大事な時間」と、加藤監督は和気あいあいとボールを蹴っている生徒たちを暖かいまなざしで見守る。
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<ある日のスケジュール>
7時30分~8時15分 朝練 (自由参加)
15時05分 授業終了、練習準備(着替え、ボールの空気圧チェックや用具の準備、出欠用マグネットの表示など)
15時40分 練習 ウオーミングアップ開始
16時00分 ボール回し
16時15分 パス&コントロール
16時30分 ボールポゼッションゲーム
17時00分 ハーフコートゲーム 終了後、各自自主練習
※定時制があるため、最終下校は17時30分または18時30分(曜日による)
【大会に向けた流れ】ミーティングで対戦相手対策
秋から始まる東京都予選を制し、全国高校選手権に出場するのが最大の目標だ。出場選手は監督が決める。

組み合わせが決まる頃合いに、通常の練習以外にミーティングの時間が入る。対戦相手の動画を入手できた場合は、「木曜日や金曜日の他のチームがグラウンドを使っている時間に動画を見て特徴を確認。自分たちがグラウンドを使う時に対策などを含めて、セットプレー(コーナーキックやフリーキック)の練習をします」(碓井さん)。動画が入手できない場合は、目指す戦い方の確認を行う。
A、Bの2チームは、18歳以下の学校やクラブチームが戦う「高円宮杯U18サッカーリーグ東京」にも所属。Aチームは2部(T2リーグ)で現在2位と好位置についている。
【年間スケジュール】地域の人たちからの応援を実感
大会のほか、毎年4月下旬に行われるチャリティーサッカーフェスティバルへの参加は、特に思い入れがある。地域の中学生が小学生にサッカーを教えたり、キッチンカーで食事を楽しんだりできるイベントで、売り上げは災害支援などに寄付。部員は設営や当日の運営スタッフを担う。

「今年はイベントの最後に自分たちの試合があって、こんなにたくさんの東久留米市の人たちが応援してくれているんだと実感できて、これからも頑張ろうという気持ちになれました」(近藤さん)
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<年間スケジュール>
4月 高円宮杯U18サッカーリーグ東京(T2リーグ)開幕(〜12月、全18節)、関東高校サッカー大会東京都大会、東久留米市サッカー協会主催チャリティーサッカーフェスティバルに運営スタッフとして参加
- 5~6月 全国高校総体東京都大会
- 7月 全部員で合宿(3泊4日、長野県菅平)
- 8月 新潟ジャパンユース(Aチームのみ)
- 9月 通常の練習
- 10~11月 全国高校サッカー選手権大会東京都大会
- 12月 東京ユースカップ
- 1月 新春交流大会
- 2~3月 通常の練習
- ※その他、練習試合や中学生との合同練習、中学生の練習参加などを随時行っている
【上達のコツ】判断&実行を日常生活でも意識
サッカーの世界では、練習や試合といったグラウンド上での活動を「オン・ザ・ピッチ」という。対義語の「オフ・ザ・ピッチ」、つまり日常生活でも手を抜かないことを加藤監督は選手に求める。
「サッカーのプレーのサイクルは、周りを見て何をするべきかを判断し、実行する。これは日常生活でも全く一緒です。だからグラウンドでサッカーだけ一生懸命やろうとしても不十分。オフ・ザ・ピッチから判断や実行を繰り返して習慣化させることで、オン・ザ・ピッチにも連動していくと考えています」
例えば、中間試験や期末試験で著しく成績が悪いと、試合には出られない。Aチームのレギュラーであっても降格するなど、厳しく当たっている。
目標に向かう過程を大切に
2018年の就任当初、加藤監督自身も周囲も全国大会に行けた、行けないといった結果だけでチームを評価する雰囲気があった。その反省から加藤監督は「目標を成し遂げるまでの過程で、将来に生きるような財産を見つけてくれれば」というスタンスに変わった。
「どういう結果に終わっても、生徒たちが最後に『この学校でサッカーをやってきてよかった』と思ってくれるような3年間を提供したいです」
結果にこだわらないわけではない。むしろ、「やり切った」思いを手にするために、伝統の〝空色のユニホーム〟で躍動する。
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東久留米総合高校サッカー部
同校は40年の歴史を持つ都立久留米高校サッカー部の伝統を引き継ぎ、2007年に創部。部員202人(3年生57人、2年生65人、1年生73人、マネージャー7人)。全国高校選手権出場3回(2009、11、19年)、インターハイ出場1回(11年)。練習場所は学校の人工芝グラウンド。