横浜翠嵐高校(神奈川)文芸部は、今年8月、5人一組の学校対抗で俳句の作品力、鑑賞力を競う「俳句甲子園」(NPO法人 俳句甲子園実行委員会主催)に5年連続で出場し、初優勝を飾った。前部長の清水風希さん(3年)と、現部長の池田光希さん(2年)に、よい俳句の作り方や俳句甲子園に向けた力の磨き方を聞いた。(文・中田宗孝、写真・椎木里咲)

思いついたらスマホにメモ

「祭には行かぬ帰郷や心太」

池田光希さんが「俳句甲子園」の予選で勝利した句だ。兼題(俳句のお題)「心太(ところてん)」のもと作成した。

池田さんは登下校や入浴中、勉強の合間といったスキマ時間に俳句を練る。「使えそうなフレーズを思いついたらスマホにメモして。意味が分かると面白い、そんな句になるよう意識して作っています」

全国優勝を成し遂げた今夏の「俳句甲子園」で副キャプテンを務めた池田さん(左)とキャプテンを務めた清水さん

清水風希さんは、「切り取るシーンが独特で面白い!」と評す。「心太」は夏の季語だ。「私ならお祭りやお囃子(はやし)のにぎやかな様子を句にしようと考えます。池田は『祭りに行かない』という独自の冷めた視点が鮮やか」

ふとした日常の「気づき」を句に

「百日紅母がふたりのおままごと」

決勝戦で披露し、勝利した清水さんの作品だ。兼題は「百」。幼い子ども2人が百日紅(サルスベリ)の下で、どちらも「お母さん役」になっておままごとをする様子が想像できる句だ。

句材によく選ぶのは日常生活での小さな気づき。「締め切りが近い時は周りをキョロキョロして題材を探しますが、普段はぼーっとした時に目についたものを詠んでいます。例えば、通学路で見つけたシクラメンのかわいらしさ、道端ですれ違った傷だらけのランドセルを背負う小学生。こんな日常の瞬間を面白く切り取れるのが俳句の魅力なんです」(清水さん)

清水さんの俳句ノート。句会での指摘をメモし、ディベート対策に使っている(学校提供)

週1の句会で鑑賞力を磨く

部の活動は週1回。春夏秋冬、その季節にちなんだ句を思い思いに詠む「句会」を開き、部員作の一句一句に対してみんなで解釈を深める「読み合わせ」が行われる。

「部員が作った句のすてきだと感じる部分や、自作の句のいいなって思うところを伝え合うんです。『こんな表現でも良かったんじゃない?』なんて添削的なことも話します」(清水さん)

学年関係なく、わきあいあいと意見を言い合える雰囲気だ。中には、他の部員の句をまるで自分の句のように、良さを熱く語り始める部員も。

「俳句甲子園」は、両チームが句を披露した後、それぞれ3分間(全国大会決勝戦のみ4分間)の質疑応答を行う。予選トーナメント、決勝リーグ、決勝戦では1試合5句(先に3勝したチームが勝利)で競う。

審査では、対戦校同士が互いの句について議論する鑑賞力も問われる。「チームメンバーの句の良い部分を言語化して伝えるのは普段の句会でやってきたこと。その経験を大会本番でも生かせました」(池田さん)

部の句会中、俳句から離れて雑談で盛り上がることも。その「居心地の良さ」がチーム力アップにつながった。

6月から大会に向けて句づくり

6月、「心太」「葉桜」「鶺鴒(せきれい)」「百」など、試合用の兼題が大会主催者から発表されると、部内は俳句作りに活気づく。提出までの約1カ月、通常一人8句ほどのところを、20句以上詠む部員もいる。

大会の提出期限までに、外部インストラクターである俳人の岩田由美さんが中心となり、試合用の句を厳選していく。今年は、決勝の大将戦の句に1年生で抜てきされた「家系図に知らぬ百人秋簾」(作・福村紗矢さん・1年、兼題「百」、個人表彰で優秀賞)などが選ばれた。

控えの部員も一丸となりディベート対策

8月の全国大会で、出場メンバーは躍動した。「作品の出来栄え、ディベートともに高い質で安定感がある」(清水さん)というチームの大黒柱・吉岡心晴さん(3年)が作った「葉桜の運河に影を黒々と」(兼題「葉桜」)が、敗退寸前から勝機を呼び戻した。

対戦校とのディベート時には、池田さんによる的確な言葉選びで、縁の下の力持ちぶりを発揮。控えの部員たちも練習でディベート相手を務めてサポート役に徹した。

決勝の先鋒戦で披露された「水打つて昭和百年目を生きる」(作・那住悠太さん・2年、兼題「百」、個人表彰で優秀賞)。俳句に関する豊富な知識量から紡がれた那住さんの一句は、チームに貴重な先勝をもたらした。

5人一組になって戦う俳句甲子園では、役割分担をしながら部員みんなで勝利をつかみ取った(俳句甲子園提供)

チームで団結「強い気持ち」で大会へ

「清水先輩の試合前の声掛けは、チーム全体の士気が上がる」(池田さん)。決勝直前、清水さんは壇上から「(兼題「百」で創作した自分たちの句は)今年の横浜翠嵐で最強打線」と威勢よく宣言。「その言葉を証明するぞって強い気持ちで試合に臨めたんです」(池田さん)

全国初優勝を「チーム力」でつかみ取った。今、清水さんの心に浮かぶのは、何気ない雑談で笑い合った部員たちとの帰り道や、全国大会の宿泊部屋に集まって3時間のディベート対策に没頭した光景だ。

「私は部員のみんなが好きで俳句が大好き」。好きを追求して創作力を磨いてきた。「たくさんの句を作り、有名俳人の名句にたくさん触れて。同じ俳句好きの仲間とも意見交換して。それで私は自分の句に自信が持てるようになりました」(清水さん)

【俳句甲子園優勝】「私の俳句はこう作る!」日本一の高校生に聞く詠みのポイント

横浜翠嵐高校文芸部

横浜翠嵐高校文芸部

部員8人(3年生3人、2年生3人、1年生2人)。「俳句甲子園」には5年連続で全国大会への出場実績を持つ。

俳句甲子園

1998年に第1回大会を実施。全国大会は毎年8月、愛媛県松山市で開催。2025年の第28回大会入賞校・入賞者一覧はこちらから。https://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/13538