豊多摩高校(東京)文芸部は、本や文章制作が好きな部員が集まり、それぞれ自宅でオリジナル小説や詩などの文芸作品の創作に励んでいる。7月の全国高校総合文化祭「2019さが総文」の文芸部門のうち文芸部誌・短歌・俳句の3部門に出場した同部の3人に、普段どんな活動をしているのかを聞いた。(文・写真 中田宗孝)

部誌を手にする吉田沙也佳さん、前部長の戸高里紗さん、部長の池田俊輔君

登場人物が「私の気持ちに応えてくれる」

部員が集まって活動するのは週1回。部員15人が思い思いの創作活動を行う。吉田沙也佳さん(3年)は「“既にそこにあるもの”を発掘するような感覚で小説を書く」と、執筆スタイルの一端を明かす。「物語よりも先に“ある景色”が心にふと浮かぶんです。それが物語になっていく。浮かんだ情景を表現するには、登場人物の目から見えた映像を書くのか、耳から聞こえた情報を書くのかと、情景描写はすごく考えます」

物語を書き進めると、書き手の吉田さんの意に反して登場人物が思いもよらぬせりふを話し出す瞬間に出会う。「『こんなせりふを言うの!?』なんて驚かされることがあるんです。そんな時、登場人物たちが、物語が、私の気持ちに応えてくれたと、小説を書く喜びを感じます」

小説執筆は「自分が自由になれる場所」

創作活動に熱中する日々を送る
 

小説を書くことの楽しさを前部長の戸高里紗さん(3年)は語る。「自分の想像力を膨らませて“世界”を創れる。小説の中でなら、私の性格とまるで違うキャラクターを生み出すこともできる。自分が自由になれる場所、それが小説を書くことです」

書きあげた小説を読み返してみると、自分でも気が付かなかった内面を発見するという。「私、こんなこと考えていたんだって。小説を書く行為は自分と向き合う時間でもあるんです」

飼われるカブトムシの哀愁、俳句に込め

部では小説や詩以外にも、大会に出品する俳句、短歌づくりにも各自が挑戦している。吉田さんの詠んだ一句「かぶと虫 すいか抱えて 後ずさる」が大会で高く評価され、文芸部門のうち俳句部門への出場が決まった。

エサを抱えて威嚇する、自身の飼育していたカブトムシの様子が浮かび、言葉を紡いだ。「そのカブトムシの姿がいいなと感じて、それに似合う言葉を探しました。誰にもエサを渡さないぞというカブトムシ、スイカの重み、虫カゴの中に閉じ込められたもの悲しさも句に込めています」

吉田さんは「(俳句や短歌は)言葉をそぎ落とすからこそできる表現があり、物語の一部を切り取るかのような、小説とはまた違った面白みがある」と話す。

誰かの心に届くまっすぐ短歌を

文芸部門のうち短歌部門に出場する部長の池田俊輔君(2年)は、歌人の木下龍也・岡野大嗣の共著歌集を読んで、より短歌にのめり込んだという。「何となく堅いイメージが短歌にあったのですが、まっすぐな言葉で聞き手の心を捉える現代短歌の存在を知った。それからは僕も誰かの心に一直線に届くような短歌を詠もうと意識が変わったんです」

池田君の作歌の方法は、心にスッと思い浮かんだキーワードから言葉を織りなす。「胸ポケット」をキーワードに「まだ君が 胸ポケットに 隠してる 僕の心は 潰しておいて」と詠んだ。「誰もが知る単語でありながら普段はあまり意識しない。けど“心”を連想させる絶妙さが『胸ポケット』にあると感じた。そして、首に込める喜怒哀楽の感情を遠回りの表現になるように言葉を選びました」

ひと夏かけて部誌編集

部員たちの小説や詩歌は、年4回発行する部誌「テラインコグニタ」に収める。毎号、編集責任者の部長が、作品を掲載するページ構成や、文字の大きさなどを考えて1冊の部誌にまとめるのがならわし。今年の全国高校総合文化祭の出場を決めた、昨年9月発行の部誌は、戸高さんが昨夏かけて編集作業を担った。

部誌は部員の作品の集大成だ

俳句をテーマ別に分類したり、読みやすい作風順に小説を掲載したりと、読者に読み進めてもらえるような工夫をした。「部員の個性あふれる作品がまとまると表現の世界が広がりをみせる。部誌は、部員全員で一つの世界を作ることなんです」(戸高さん)

 

部活データ

 

部員15人(3年生8人、2年生3人、1年生4人)。週1回活動。不定期に行う「合評会」では、部員の作品を読み合い、感想を紙に書いて伝える。「部員から文章を褒められると創作モチベーションがあがります」(戸高さん)