3月に高校を卒業した鈴木るりかさんは、『さよなら、田中さん』で中学2年の時に小説家デビューしました。2022年2月には最新刊『落花流水』を刊行。どうやって受験勉強と執筆活動を両立させたのでしょうか。(文・写真 黒澤真紀)

友達とのやり取りもメモ

―学校がある日のスケジュールを教えてください。

朝6時45分に起きて、7時20分ごろのバスに乗っていました。バスの中では寝ていることが多いですね(笑)

部活がある日は17時ごろ、ない日は16時ごろ帰宅。帰ったら、着替えて宿題をしたり、パソコンのメールをチェックしたり……。その後、夕食をすませ入浴し、0時ごろ寝るまでは本を読んだりゲームをしたりして、趣味の時間を過ごしていました。

最新刊『落花流水』を刊行する鈴木るりかさん

―小説家として、普段の高校生活を送る上で心がけていたことは?

普段から「小説を書く」ためのアンテナを張っています。友達とのやりとりや日常の中で気になったことはメモをとったり、家に帰ってから書き起こしたり。両親の会話もときどきこっそり聞いています(笑)

小説や新聞を読んでいても同じです。新刊の「落花流水」は、漢字検定2級の勉強中に気になった言葉。物事が落ちぶれていくという意味や、男女の相思相愛という意味があります。そこからイメージをどんどん広げていきました。

るりかさんは一つ一つの質問に丁寧に答えてくれた

―小説家であることは、高校生活にどんな影響をもたらしましたか?

本を通じてそれまで知らなかった人と話したり、友達になったりできたのは小説家ならではの経験でしょうか。中高一貫校だったので、友達とも長くつきあうことができました。

気持ちが乗ってくる夜に書く

―部活や課外活動などでは、どんなことを行っていましたか?

私は手芸や料理が好きなので家庭科部に入っていました。特にお菓子作りが好きで、部活ではみんなでよくクッキーを作りました。文化祭前は忙しいのですが、先輩や後輩とも仲が良いのでそれも楽しかったです。私の本を持ってきた先輩に「本にサインして」と頼まれときはうれしいような照れくさいような気がしました(笑)

―小説の執筆活動はいつどこで?

平日はなかなか時間がとれないので日曜日や長期休みに執筆します。昼間は読書をしたりゲームをしたり、友達と出掛けたりして過ごし、夜、気持ちが乗ってきたら書き始めます。私は、「書くぞ!」と机に向かうよりも、「書こうかな」のリズムができるのを待つタイプなので、日付が変わってからスタートすることも。いったん書き始めると2、3時間はあっという間にたっていますね。

思い出のみんながマスク姿なのは悲しい

―小説のアイデアはどんな時に思い浮かぶのでしょうか?

『落花流水』がそうだったように、日常のなかで気になった言葉や出来事からイメージを広げていきます。作家さんによっては、ストーリーや登場人物を先に決めてから書く方もいらっしゃいますが、私は書きながら話の流れを考え、それによっていろいろなキャラクターを登場させます。クライマックスもラストも最初から決めていないので、ストーリーの広がりにまかせています。

14歳から17歳まで、毎年誕生日に著書を刊行。いずれも小学館。最新刊『落花流水』は受験を優先し、進路決定後に刊行した

―コロナ禍の高校生活について感じたことを率直に教えてください。

高校1年生の終わりからコロナ禍が始まってしまったので、高校生活の最後の2年間はコロナとともにありました。修学旅行にも行けず、いろいろな行事が中止になり、できても小規模開催でした。

高校生活を振り返った時、思い出すみんなの顔がマスク姿なのかなと思うと寂しいですね。でも、この時期に感じたことをピックアップして、いつかコロナの中で生活する大学生をテーマにした小説を書いてみたいです。

受験生と小説執筆を両立

―受験勉強と小説の執筆をどのように両立させたのですか。

高校3年は受験があるので新刊を出す予定はなかったんです。でも、私は書くことが好きなので、日記やエッセーを書きためていたら、春くらいに小説が書きたくなりました。そこから少しずつ書いていき、夏休みにまとめて仕上げました。入試は総合型選抜で受験したので、小論文や面接の練習をして臨みました。合格したときは本当にうれしかったです。

4月からは早稲田大学の社会科学部に進学します。「文学部じゃないの? 」と言われそうですが(笑)、いろいろな視点で社会について考えたいと思っています。

お気に入りの三猿のストラップは、デビュー以来ずっと担当している小学館編集部の片江佳葉子さんから。「受験のお守りにいただいてからずっとつけています」

―小説を通して読者にどんな影響やインパクトを与えたいと考えていらっしゃいますか。

私の本に出てくる登場人物は、みんなどこか駄目な部分があります。でも、そういう“良くない”部分も抱えて生きていく人もいるんだと伝えられたらなと思います。私自身、読後に嫌な感じが残る話よりも、最後に希望が見える話のほうが好きなので、自分の作風もそうありたいです。

失敗した後にどう生きるか

―新刊『落花流水』について教えてください。

これまでの著書は、主人公が私より年上だったり年下だったりしましたが、今回は、初めて等身大の自分とリンクさせた、高校3年生で受験生の水咲が主人公です。とある地方都市を舞台に、受験生の初恋を描きました。「取り返しのつかないことや失敗したことがあっても、その先も人生は続いていく。失敗をした後にどう生きていくのか」がテーマになっています。

受験生のみなさんだけでなく、昔受験生だった方にも読んでいただき当時を思い出してもらえたら。初めて長編小説に挑戦したので、ぜひ読んでください!

鈴木さんから新生活を迎える高校生へメッセージ

  • あと何回この道を行き来するんだろう。
  • 通学路。いつもの風景。うんざりするほど続く気がした。
  • だけどそれは必ず来る。卒業の日。
  • そして歳月が流れ、そこで過ごした時間を、懐かしく、美しいものとして
  • 思い出す日もまたいつか来るだろう。
  • そんな日々を、これから迎える君に。
  • 入学・進級おめでとう。

【一問一答】おすしとラーメンが好き!

―尊敬している人は?

長編小説が書ける人・理系が得意な人。

―好きな作家は?

志賀直哉・三浦哲郎。

―得意な教科と苦手な教科は?

得意なのは国語。苦手なのは理系。

―好きな食べ物は?

おすしとラーメン!

鈴木るりか 2003年、東京都生まれ。小学4年生だった2013年に「12歳の文学賞」で大賞を受賞し、2014年、2015年と3年連続で大賞に選ばれる。14歳の誕生日となる2017年10月17日に『さよなら、田中さん』を刊行。最新刊は『落花流水』

「読者に前向きなメッセージが伝わってほしい」と鈴木さん

『落花流水』(小学館・税抜1400円)

主人公は、とある地方都市に住む高校3年生の水咲。ある日、昔から憧れていて、今は水咲の高校で生物教師になった初恋のおにいちゃんが、ある日突然逮捕されてしまいます。先生をひたすら信じたい水咲と、心配する幼馴染みの聖二と愛海。水咲は別の事件にも巻き込まれてしまい……。現役受験生だった等身大の鈴木るりかさんによる爽やかな青春小説です。