恋人にスマホを見られたり、交友関係を制限されたりしても「愛されている」と思い込んでしまう中高生がいる。無理を重ねることで心の負担が増していく中、自分を大切にしながら関係を続けるためにはどうすればよいのだろうか。(黒澤真紀)

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恋人が勝手にスマホを見てくる

高校2年生のメイちゃんは、大学生のヤマくんから熱心にアプローチされ、2カ月前に交際を始めた。ヤマくんは、メイちゃんのスマホを勝手に見て写真をチェックする。寂しがり屋で一緒にいないと不機嫌になる彼のために、部活も退部した。メイちゃんは次第に、自分のスマホも時間も彼のもののように感じるようになっていく。

ある日、メイちゃんが彼にどこで誰と何をしているかを報告しているのを知った友だちから、「メイの彼氏はヤバい。DVレベルだと思う」と言われ、うろたえる。「ヤマくんの行動は、全部私のためで、私を愛しているからなのに」。しかし彼といると緊張するし、いないと解放感がある。愛し合っているはずなのに、モヤモヤするのはなぜ?(『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(鴻巣麻里香著、リトルモア)より、高校生新聞編集部が抜粋編集)

スマホチェックや行動監視は「DV」になる

恋人だからといって、何でもかんでも心を許す必要はない。適切な距離を保つには、「私は私、あなたはあなた」という心の境界線「バウンダリー」を意識することが重要だ。「バウンダリー」に詳しいスクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さんに解説してもらった。

恋人との適切な距離の保ち方

―メイちゃんの恋人・ヤマくんの行動は、どんな部分が問題ですか?

ヤマくんが彼女のスマホの写真を見るなどプライバシーを侵害している点、自分の時間やスマホがヤマくんのもののように感じている点、さらに行動を逐一報告させられている点です。「私とあなたの境界線」であるバウンダリーを超えていますし、ヤマくんがメイちゃんの主体性を奪い、「これが正しい」と信じ込ませる心理的なDVにあたります。

モヤモヤしたら立ち止まって

―恋人間でバウンダリーを超えると、どんな悪影響が出るのでしょうか?

DVの被害者、または加害者になってしまいます。DVは暴力や脅しだけでなく、精神的にも相手を巧妙に支配します。される側は「愛されている」と思っているので、DVに気づきません。相手に染まっている時はストレスや不安を感じない精神状態の「コンフォートゾーン」にいるので幸せを感じますが、やがてヤマくんの価値観から外れると苦しくなります。「私なんかいい子じゃないから、リードしてくれる人の方が合っている」と自分に呪いをかけるようになり、自尊心が少しずつ壊されていく。本当に危険です。

―立ち止まるにはどうすればいいでしょうか?

「モヤモヤするけどいいか」ではなく、モヤモヤしたらいったん立ち止まってください。「モヤモヤする」はとても重要サインなので、見逃さないでくださいね。彼と会う前に気持ちが落ち込む、ドキドキする、手が冷たくなるなども、サインのひとつ。

周りに「あなたの価値を決めるのは恋人じゃないよ」と言ってくれる人がいることも重要ですね。自分を傷つける相手に愛されたいか、よく考えてみてください。

中には別れたあとも呪いが解けずに、新しい恋人にも自分を虐げる人を選んでしまうケースもあります。そういったパターンを繰り返す人の中には、恋人以前に親や先生など、身近な大人が原因でバウンダリーが侵害され苦しんだ経験が根っこにあることも。専門家に相談するのがよいと思います。

話し合いができる相手を選んで

―お互い愛し合っているカップルでも、「好きだけど、ハグまではまだ早いかな……」なんてケースもあります。どのように気持ちを伝えればよいでしょうか?

「○○されるとちょっと嫌なんだよね」と言うだけでいいんです。折り合いがつく相手とは、誠実さの基準がマッチしているということ。機嫌が悪くなったり、拒否されたりしたら、「うまくいかないかもしれない」と検討する材料にしてください。

「話し合うのは面倒くさい」ではなく、「ふんふん、そうなんだ」と聞いてくれる相手との方がいい関係を築けますよね。高校生のうちはまだ人生経験も少ないし、自分に100%マッチするパートナーに出会うことは難しいかもしれません。でも、それは全然悪いことじゃないんです。これからいろんな人と出会いながら、自分にとってどんな人が合うのかを少しずつ学んでいけばいいんです。

―お互いに心を守りながら上手に距離を近づけるコツは?

お互いの気持ちやペースをしっかり話し合い、すり合わせることが大切です。例えば電話ひとつとっても、恋人同士で「毎日何時間でも話したい!」なんて時期なら、存分に電話を楽しむのもすてきな時間ですよね(笑)。でも、「今は勉強したい」「他にやりたいことがある」と相手から言われたとき、不機嫌になってしまうのは注意が必要です。一方的になると負担に感じることがあります。無理をせず、心地よい距離感を見つけることで、よりよい関係を築いていきたいですよね。

鴻巣麻里香(こうのす・まりか)

精神保健福祉士。福島県スクールソーシャルワーカー。子ども食堂などを運営する「KAKECOMI」発起人・代表。精神科医療機関勤務、東日本大震災被災者支援を経て現職。セルフケアやメンタルヘルス、コミュニティケア等のワークショップや講演を多数行っている。

 

『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』

 

鴻巣麻里香さんが、友達や親、先生などに抱えるモヤモヤに対し、「バウンダリー」を糸口に対処法を見つけ出す一冊。具体的なエピソードを交えながら、人間関係の悩みやしんどさについて、助けになる知識と作戦を伝える。