平賀茜音さん(奈良・西大和学園高校2年)には、心臓疾患を抱えた妹がいる。「病気の妹を支える優しい姉」を演じて妹に依存している自分に気づき、「自立したい」と高校進学に際し地元を離れた。家族から離れて暮らし、得た気づきとは。(文・写真 椎木里咲)
「優しい姉」の評価求め妹に依存
平賀さんは、小学校に上がるころまで母の「おっぱい」を飲んでいたという。当時、おっぱいを飲むことを「生きがい」だと感じる反面、いつまでもおっぱいに依存している自分を恥ずかしく思っていた。
そんな平賀さんには、7歳下の妹がいる。小学校に上がってから生まれた妹で、心臓に疾患を抱えていた。それまで一人っ子で過ごしてきた平賀さんにとっては待望の存在で、「姉である」ことを誇りに思っていた。
ある日、妹を連れて公園に遊びに行くとクラスメートに会い、初めて他人に妹のことを話した。心臓の疾患のこと、毎日面倒を見ている自分のこと……、ニヤニヤしながら話す自分に気づきぞっとした。「体の弱い妹の優しい姉」という周囲からの評価を得るために、妹の不幸に、おっぱいと同じく「依存」していることに気づいたのだ。
それ以来、妹とはぎくしゃくしてしまった。依存をやめ、「自立しなきゃ」という思いが強まった。
「まだお母さんでいられるんやね」母の言葉に涙
高校入学を期に、地元の香川県を離れることになった。進学先は遠く離れた奈良県。新しい部屋に引っ越した日、1本だけ置かれた歯ブラシや、夕日が差す部屋の景色を見てさみしさがこみ上げ、つい母親に「香川に帰る」と電話で弱音を吐いた。母親は平賀さんのさみしさを受け止め、「安心した。私はまだお母さんでいられるんやね」と言った。
思わず涙が出た。ずっと妹に依存していることを恥ずかしく思っていたが、母も私を必要としていたのかもしれないと思うと、温かい気持ちになった。周囲を頼っていいんだと思えた。
妹との関係改善、文通する仲に
平賀さんは高校進学後に感じた家族への思いを、「半分、おっぱい。」と題し原稿にまとめ、8月に全国高校総合文化祭(清流の国ぎふ総文2024)の弁論部門に出場。全国2位となる文化庁長官賞を受賞した。
小学4年生になった妹は心臓がよくなり、平賀さんとの関係も改善した。「定期的に文通をして、近況を報告し合っているんです。妹は硬筆を習っていて、私よりもきれいな字で書いていてすごいなって」とにこやかに話す平賀さんから、かつて妹との間にあった壁は感じられない。
「自立は『孤立』じゃない。適切に『依存』して、お互いを支え合いながら生きていくことが大切だと伝えたい」