森野巧巳さん(福井・敦賀(つるが)高校3年)は地元・福井と敦賀の文化を愛する高校生。文化を守るため、地域の民謡や「福井弁」を広める活動を行っている。地域に古くから根づいていた文化が若者たちに身近でなくなった今、「敦賀の文化を後世に残したい」という熱い思いに迫った。 (文・中田宗孝、写真・本人提供)

地域の踊りを子どもに伝える

高1の7月に設立したNPO法人「とても敦賀すきすき」は、福井県敦賀市の民謡を踊り継いでいく活動を行っている。メンバーは現在、森野さんを含む敦賀市内の高校生8人と、活動をサポートする大人6人の計14人だ。日本舞踊の先生から指導をあおぎ、月1回のペースで民謡踊りの稽古に励む。「振り付けの所作の一つひとつがきれいだなと感じています」

踊る際の着物姿もさまになり、日常生活でも姿勢がピンとなった。振りがかっこよく一番好きだという「敦賀ばやし」はじめ、これまでに10種類の踊りを習得した。 

「楽しく踊ろう!」を心掛け、民謡踊りを子どもたちに教える森野さん(左)

市内の祭りで「気比(けひ)音頭」「大敦賀行進曲」といった踊りを披露したり、地域の小中学校で民謡踊りをレクチャーする出前授業を行うなど、中学生以下を対象にした民謡踊り無料講習会の開催にも力を入れている。 

美空ひばりの歌声で昭和歌謡に目覚めた

小6のときに歌手・美空ひばりの「愛燦燦(あいさんさん)」を聞いて、昭和歌謡の虜(とりこ)に。中学に上がると昭和歌謡のレコード収集を始め、中3のとき、歌手・水前寺清子が歌うご当地ソング「敦賀とてもすきすき」のレコード盤を入手した。「J-POPを親しんできた僕には、昭和の歌や民謡がとても新鮮で、魅力的だったんです」 

森野さんが入手した昭和歌謡のレコード。「敦賀とてもすきすき」(水前寺清子)は設立した団体名の由来になった

福井や敦賀を題材にした昭和歌謡曲を次々発見する中で、「僕らの世代が親の年齢になったときに、敦賀の民謡を誰が歌えるのか、誰が踊れるのかなって、ふと考えました」。その小さな気がかりが森野さんを突き動かした。「今、僕が行動しなければ、敦賀の民謡や踊りが消えてしまうんじゃないかと思ったんです。敦賀の文化を後世に残していきたい」

方言辞典を編集長として制作

民謡の継承以外の地域活動にも取り組む。高1の夏から、福井の魅力発信を目的に福井県が企画した「福井の方言愛着ましましプロジェクト」にも参加。同プロジェクトの一環として行われた、県内の高校生たちによる福井の方言を紹介する辞典づくりに、森野さんは編集長として携わった。

森野さんは敦賀に伝わる民謡踊りの保存・伝承活動を行うNPO法人「とても敦賀すきすき」の代表理事を務める

「福井の方言は、地域によってイントネーションが異なるんです。同じ福井弁でも世代間によって差異もある。それを1冊の辞典にまとめるのが大変でした」

県内各地の高齢者らに取材を敢行。「つるつるいっぱい(満タン。もう入り切らない状態)」「じゃみじゃみ(テレビの砂嵐)」といった辞典に収録する福井の方言を選び、電子書籍としてウェブ公開した(現在は公開終了)。

若者の「地元文化離れ」を防ぎたい

敦賀に暮らす若者たちにとって、地域特有の民謡や踊り、方言は、なじみのあるものではなくなりつつある。森野さんも同世代の「地元文化離れ」を切に感じ取っている。「僕自身もそういった文化に触れる機会が少なかったですし、若者たちは地元の文化に関心を持たなくなっている。運動会でも民謡を踊らなくなりました」

若者たちの文化離れの解決策として「敦賀のすべての学校で『ふるさと教育』として民謡や方言を取り入れてほしい」と提言する。「若い世代が福井や敦賀をもっと好きになってくれる、愛郷心も育まれていくはず」

3月の「北陸新幹線敦賀開業」記念イベントで民謡踊りを披露する、森野さん(写真中央)ら「とても敦賀すきすき」の高校生メンバーたち

自身も「地元愛」の深さが文化継承活動を続ける大きな原動力だという。「やっぱり、自分が生まれ、育ててくれた敦賀は、自分にとって大切な場所。『敦賀が好き!』。そう胸を張って言えます」

森野さんの所作をまねしながら園児や小学生たちが元気に踊る姿に、この活動の意義をかみしめている。今年は子どもたちに向けた民謡踊りの講習会をこれまで以上に増やしていく計画だ。