受験シーズンは、インフルエンザや風邪、新型コロナウイルスなどの感染症の流行が心配な時期に重なります。入試を万全の体調で迎え、全力を発揮するために知っておいてほしい「感染症を予防する方法」を、免疫に詳しい医師の清益功浩先生に聞きました。(木和田志乃)

■目次■
1、今冬の感染症流行の傾向は?
2、手洗い・うがいの注意点は?
3、感染しないための行動は?
4、マスクはしたほうがよい?
5、ワクチン接種はしたほうがよいの?
6、部屋の温度や湿度の適切な設定は?
7、食中毒の予防法は?

感染症流行の傾向は? 今冬は「季節外れ」

―今冬、感染症流行の傾向を教えてください。
 感染症に「季節感」がまったくなくなってきているのが、今年の傾向です。インフルエンザは、コロナ禍で3年ほど流行しませんでした。真冬に流行するイメージがあると思いますが、今年は9月ぐらいから流行し始めました。まだ流行が拡大する可能性が高そうだという感じがしています。

今年の傾向は感染症に季節感がない(写真はイメージ)

咽頭結膜熱を引き起こすアデノウイルスもはやっています。通常、アデノウイルスは夏場に流行し、秋以降は収まっていくものなので、季節外れの流行です。今も患者さんは増えていますが、そろそろピークアウトすると思います。
 せきや鼻水が出るRSウイルスは、11月から2月ぐらいに患者が増えることが多いですが、今年は7月にはやったので、おそらく今年の冬は流行しないでしょう。嘔吐(おうと)や下痢を引き起こすノロウイルスは2月ぐらいまでは増えると思います。

―なぜそんな状況になっているのでしょう?
 
毎年ウイルスに感染することで免疫をつけている人がいます。新型コロナウイルス流行の時期は他のウイルスに感染しづらくなったため、免疫力が若干落ちている可能性があるせいなのかもしれません。また、感染対策が新型コロナウイルス感染症の大流行時よりできていないことがあるかもしれません。

―新型コロナは今後も流行しますか?
 
変異すれば年明けにまた流行期を迎えるかもしれませんが、ワクチンの接種状況と変異株の特徴によりますので、一概にどうなるかは言えません。

手洗い・うがいの注意点は?

―感染症対策の基本は「手洗い・うがい」ですよね。注意点はありますか?
 
ちょっと手をすすいで終わりにするのではなく、石けんをしっかり泡立てて流水で十分に洗ってください。特に両手を合わせて指と指の間を洗う、指先や爪の間を手のひらでこする、手首も洗うことも忘れないようにしてください。冬は手が荒れやすくなりますから、ハンドクリームを使って保湿することも大事です。爪は短く切っておくことも大事です。厚生労働省が手洗いの基本を紹介しています。

うがいに関しても、口に水を含んですぐ出すのではなく、「ガラガラ」と喉全体を潤すように、しっかりやってください。粘膜の乾燥を防ぎ、粘膜に付着している病原体を減らし、感染を予防する効果はあると思います。外から帰ったら病原体を家に持ち込まないことが大切です。

―外で着ていたコートやジャケットにもウイルスは付きますか?
 
ウイルスの種類にもよりますが、2、3日は病原性があるのではないかという報告もありますので、コートなどにもある程度病原体が付いていることを前提にして、自室には入れずに玄関先に置いておく方が好ましいですね。

感染しないための行動は?

―受験生にとって感染症はどうしても避けたい事態です。ついやりがちなNG行動とは?
 
ウイルスなどの病原体が手についたまま、目をこすったり、口や鼻をいじったりすることはNGです。目は鼻とつながっていて、目から入った病原体は涙と一緒に鼻に入ってきます。少量のウイルスでも感染し発症する可能性があるので、顔は触らないようにしましょう。

目をこすると手から病原体が体内に入るリスクがある(写真はイメージ)

また、体調が悪いのに誰かと一緒に食事に行ったりすることはNGです。密な状況で換気の悪い場所で食事をするのも感染の可能性が高くなります。

新型コロナもインフルエンザも症状が出る前から感染力がありますので、体調が悪いと気づいたときには遅いというケースがあります。ですから、完全に予防しようと思ったら「誰でも病原体を持っている」という前提で、社会生活を営む以上はどこにでもリスクがあると考えて行動してください。

マスクはしたほうがよいの?

―コロナ禍では屋内でのマスク着用が求められていましたが、現在は個人の判断にゆだねられています。マスク着用について、どう考えればよいでしょうか?
 
マスクは、インフルエンザが流行しているような状況であればしたほうがいいと思います。「自分が人に感染させないためにマスクをする」のが前提です。

私たち医療従事者はN95という感染予防用のマスクを使いますが、普通のサージカルマスクは「自分の感染を防ぐ」という意味では有効性はそこまで高くないです。ただしマスクをしていると、病原体のついた手で口や鼻を触らないので、感染は減ります。

実際に小学校でマスクをしている児童の方がしていない児童よりもインフルエンザにかかる人が少なかったというデータもあります。受験生であれば屋内で人と密接になる場合はマスクをした方がいいと思います。

マスクは夏場だと蒸れてしまいますが、冬ならば乾燥した空気から喉や鼻の粘膜を守ってくれるのは利点ですね。

部屋の温度や湿度の適切な設定は?

―感染症対策的に、室内の環境はどう整えればよいですか?
 
インフルエンザに関しては、温度が下がれば下がるほど感染力が増すと言われていますから、室温を上げるのは予防になります。「室温25度ぐらいで湿度が50%から60%ぐらい」が適切と言われています。

しかし、人間にとって快適な環境は、アレルゲンであるカビやダニにとっても快適で繁殖しやすい温度でもあります。せきが続くなど体調がよくない場合は、アレルギーを発症しているかもしれないので注意が必要です。

室温25度くらい、湿度は50%~60%くらいが理想

―換気の適切なタイミングは?
 
換気は1時間に1回程度で十分ですが居住環境によります。冬に換気をまめにすると湿度が下がりますし、受験シーズンですと黄砂やスギ花粉が入ってきますので、自分の部屋で他の人との接触があまりないのであれば、それほど換気を気にする必要はありません。

ワクチン接種はしたほうがよいの?

―ワクチン接種はすべきなのでしょうか。
 
ワクチンがあるのであれば、接種は有効な手段だと思います。接種したからといって100%予防できるものではありませんが、感染したとしても症状を軽減できる可能性はあります。

インフルエンザワクチンの場合、接種後効果が出るまで2週間程度かかるとされ、予防効果は6割から7割程度、3、4カ月で効果がなくなると言われています。一般入試の本番が1月下旬からとすると、遅くとも12月までには接種することをおすすめします。

高校生の場合、接種は1回で効果があります。ですが、2回接種する方が「増強効果」と言って抗体量が上がりやすくなります。抗体の値が高くなれば半減するまでの期間が長くなるので、2回接種するのが長期間効果を持続させる方法です。

食中毒の対策は?

―ほかに気を付けたい感染症とその対策も教えてください。
 
食中毒ですね。冬場はかきなどの二枚貝から感染するノロウイルスが代表的で嘔吐(おうと)や下痢を引き起こします。他にも鶏肉などから感染するカンピロバクター、カレーやシチューなどの煮込み料理で増殖するウェルシュ菌などがあります。

かきや鶏肉は特に注意したい

多くの菌、ウイルスは加熱によって死滅しますので、しっかり加熱したものを食べるようにしてください。ただし、例えば菌に汚染された鶏肉を処理したまな板の上で切った生野菜には菌が付着するので、調理には気を使う必要があります。

ウェルシュ菌は熱に強いため、重症化はしませんが加熱しても死滅しません。適切な温度管理をせずに一晩放置したカレーなどは注意してください。受験生は生食などの外食をしない方が無難ですね。

 

清益功浩先生
 きよます・たかひろ 大阪府済生会中津病院免疫・アレルギーセンター部長。小児科専門医・アレルギー専門医。京都大学医学部卒業後、日本赤十字社和歌山医療センター、市立岸和田病院、京都医療センターなどを経て、現職。