今年6月、湘南工科大学附属高校(神奈川)に、新図書館が誕生した。「放課後の居場所が欲しい」という生徒の声が反映された空間だ。新図書館誕生の裏には、生徒代表としてプロジェクトに携わった「図書館大使」がいる。(文・写真 椎木里咲)

生徒代表として図書館作りに携わる

新図書館の名前は「生息地」という意味を持つ「HABITAT」。2019年から建築家やデザイナー、先生、有志の生徒からなるチームで、ミーティングやワークショップを通して「HABITATでどんな体験をしたいか」と考えてきた。

横溝莉音(りの)さん(3年)と田中杏佳さん(3年)は、1年生のころからプロジェクトに参加。2年生になってからはプロジェクトの生徒代表である「2代目図書館大使」に就任した。

HABITATのテラス席。昼休みには昼食を取る生徒に大人気

「他の生徒には『生徒が一緒に図書館を作ること』自体が、あまり知られていないような気がしていて。でも、自分たちの居場所を自分たちで作っていくことってすごく楽しいし、大切なことだと思うんです」(田中さん)

図書館のことを多くの生徒に知ってもらうべく、2人は生徒向けにビブリオバトルを行ったり、「HABITAT」の使い方について考える校内のアイデアコンペを主催したりと、精力的に活動してきた。

誰もの「居場所」になる図書館 

旧図書館の老朽化に伴い建設が決まったHABITATは、生徒から寄せられた「放課後の居場所が欲しい」という声が反映されている。ミーティングやワークショップを通して、「本と人、人と人とをつなげる図書館」というコンセプトも生まれた。

HABITAT内にある3年生の教室。後ろには壁がなく開放的な空間だ

図書館としての機能はもちろん、カフェスペースやイベントスペースがあり、さらには3クラス分の教室まで組み込まれている。

レンガ作りの壁がランダムに並ぶ建物内にはいたる所に机や椅子が置かれ、参考書を片手に勉強に励む生徒や、友達と談笑する生徒、飲み物片手に作業をする生徒がいる。それぞれが思い思いの時間を過ごせる、「図書館」以上の機能を兼ね備えている。

「不登校を防ぐ図書館」への思い

活動する中で、2人の中でひとつの考えが浮かんだ。HABITATが「不登校を防ぐ役割」を果たせるのではないかと思いついたのだ。

改めて「HABITATがどんな場所なのか」について考えた2人は、黒板に思いつくワードをどんどん書き出していった。そして浮かび上がったのが「不登校」だった。

横溝さんには中学生のころ、クラスになじめず不登校になった友達がいた。友達は「特別教室」に通っていたという。自分の教室に入るのは、きっかけがないと難しいことだと気づいた。

横溝さん(左)と田中さん

「図書館には教室のような、『この時間はここにいないといけない』『この時間はこれをしないといけない』という決まりはありません。自由に過ごせるからこそ、学校に来るきっかけになる場所だと思ったんです」(横溝さん)

田中さんは「図書館大使として企業の方とやり取りしたり、イベントを企画したりするのが楽しくて、この活動が学校に来る理由の一つになっていた」と話す。「学校に行けない」「つまらない」と感じている生徒の学校生活がどうしたら良くなるかを考えれば、結果的に不登校問題の解決につながるのではないかと考えた。

2人はこの思いをまとめ、探究学習を行った高校生が自身の学習内容を発表する「全国高校生マイプロジェクトアワード2022」(全国高校生マイプロジェクト実行委員会主催)で発表。その後「SDGs」をテーマとした探究活動を発表する「SDGs探究AWARDS 2022」(未来教育推進機構主催)に出場し、今年3月に協賛企業賞を受賞した。

生徒が作る「生徒の居場所」に

開館して約半年がたったHABITAT。2人は、すでにここが「生徒の居場所」になっていることを実感している。「お昼休みに昼ご飯を食べに来ていたり、同じ部活だろうなって生徒が学年関係なく過ごしていたりしているのを見るとうれしいです」(横溝さん)

田中さんはこれからのHABITATを思い浮かべ、「生徒の声を取り入れたルール作りをしてみたい」と話す。「今ある図書館に関するルールは先生が決めたものが多いんです。『生徒の居場所』だからこそ、生徒を巻き込んでいきたい」(田中さん)