高校生や中学生の受検者が年間約300万人に上る「英検(実用英語技能検定)」は、2024年度に問題形式を一部リニューアルし、25年度には31年ぶりに新しい級を設ける。公益財団法人・日本英語検定協会の担当者に級新設や問題刷新の目的などを聞いた。(野村麻里子)
■目次■
1、問題形式はどう変わる?
2、新しい級の難易度は?
3、なぜ新しい級を作るの?
4、大学入試への影響は?
5、受検料は安価にできないの?
6、英検とTEAPの違いは?
7、おすすめの勉強法は?
問題形式はどう変わる?
―採点等のAI導入、新設級の設置、出題内容の見直しなど、さまざまな改革を進める背景を教えてください。
英検の使命は、実用英語を普及するための検定試験を実施することで、年齢を問わず誰でも英語力を向上できるようサポートすることです。
今年で英検創設60周年を迎えました。英語教育は時代と共にどんどん変わってきています。改革をして新しく進んでいこうというより、「時代に寄り添うために変わろう」としているスタンスです。
―2024年度から問題形式が一部リニューアルします。学習指導要領の変化を踏まえた動きということですか?
英検では、「英語4技能(聞く<リスニング>・話す<スピーキング>・読む<リーディング>・書く<ライティング>)」の試験を提供してきました。今の学習指導要領は、4技能を別々に学ぶのではなく組み合わせて活用する方針が示されています。学習指導要領と足並みを完全に合わせているわけではないですが、時代が求める変化を取り入れるという意味で参考にしています。
2024年度からは3級以上のライティングで英作文が増加、2級以上では要約問題が新たに出題されます(表参照)。
新しい級の難易度は?
―25年度から準2級と2級の間に「新設級」を導入するのはなぜですか?
英検は最初、1・2・3級のみからスタートしています。それから4級、5級、準1級、準2級と徐々に級を増やしてきました。今回は31年ぶりの新設級となります。
英検は合格・不合格だけでなく、英語力を数値で示す「英検CSE(Common Scale for English)スコア」を導入しており、外国語の運用能力を測る国際規格である「CEFR(セファール)」と英検を照らし合わせると、以下のようになります(表参照)。
23年5月に発表された文部科学省の「英語教育実施状況調査」によると、高校生の英語力はCEFRのA2レベル(=英検準2級相当)が48.7%ですが、さらに上のB1レベル(=英検2級相当)になると21.2%にとどまっています。
B1のレベルは確かに高いですが、英語力として必要なレベルであると考えています。より多くの人が到達できるよう、スキルアップを促していきたいのです。
また、準2級でどれだけ高いスコアを得ても、CEFRだとA2扱いです。ですが、新設級では1950以上のスコアを取ればB1として認められます。
なぜ新しい級をつくるの?
―高校卒業レベルである「英検2級」取得者を増やすために、級を新設するということですか?
準2級までは順調に取得できても、2級でつまずく人が多いためです。学校現場の先生からは「準2級と2級は別物で、その壁が大きい」、生徒からは「何回受けても落ちてしまう」「準2級と比べ2級は単語のレベルも段違い」と、難易度の差を指摘する声が上がっています。
実際に、英検5級から2級までを各級合格するまで順番に受検するとして、受検者のデータを抽出すると、3級から準2級に合格するには約1年なのに対し、準2級から2級に合格するには約1年半以上かかってしまいます。
なかなか合格できないと、モチベーションが下がってしまいますよね。英語学習を登山に例えるとしたら、身近に目標があったら登りやすい。新設級は、「もう少しで2級に手が届くよ」「今ここまで来ているよ」という目安を示したいという思いがあります。
―難易度は準2級が高校中級程度、2級が高校卒業程度とされていますよね。新設級の受検の目安は、高校2年生あたりが想定されますか?
英語が得意な人は中学生で準1級を取る人もいますし、それぞれの学習状況で変わりますので一概には言えません。あくまで2級取得までの中間のステップ、と捉えてもらいたいです。
―新設級の名称や合格基準点、受検料は?
検討中です。なお、新設級を設けても、現存の級の名称の変更をすることはありません。受検料は準2級と2級の間くらいの設定になる見込みです。
大学入試への影響は?
―英検を入試に活用する大学も増えています。新設級設置は大学入試にも影響を与えそうです。
英検としては、「大学入試のためにこういう問題形式にしよう、こういう試験の設計にしよう」という考えはしていません。英語に関する検定がいくつかある中で、多くの大学が英検を採用している状況であるわけです。ただ、新設級が浸透した際、2級だとレベルが高すぎるけれど準2級よりは英語力がある学生を求める大学がいれば、入試に利用する大学が出てくるかもしれません。
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■出願条件に英検を利用している大学入試の例
- ・一橋大学商学部/学校推薦型選抜…英検1級
- ・上智大学外国語学部英語学科/公募制推薦…英検準1級以上
- ・立教大学経済学部/自由選抜入試…英検スコア1,950以上
- ・関西学院大学工学部/探究評価型入試…CEFR A2レべル以上(英検準2級など)
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■一般選抜に英検を利用できる大学の例
- ・早稲田大学国際教養学部/一般入試…1級なら20点、準1級なら14点、2級なら7点加点
- ・立教大学/一般入試…英語の独自入試なし。英検CSEスコア2300以上で大学入学共通テスト85%換算、2400で95%換算、2450で100%換算
- ※英検のウェブサイトから英検を活用している大学を調べることができる
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―大学入試に英検のスコアを利用したい受験生は、いつまでに資格を取り終えていればよいと言えますか?
総合型選抜なのか学校推薦型選抜なのか、一般選抜なのか、受験生がどの入試方式を選ぶかで変わるでしょうし、一概には言えません。
紙と鉛筆で受検する従来型の英検は年3回ですが、パソコンを使って受検する英検S-CBTは原則毎週末に受けられますので、柔軟にスケジュールを調整することができますよ。
受検料は安価にできないの?
―何度も挑戦して入試で良いスコアを使いたい受験生にとって、受検料は痛手です。
「準会場」として認められた団体(学校・塾・企業など)から団体申し込みをすれば、「本会場(公開会場)」より少し安く受検できます。また、準会場に在籍していない一般の受検者も、準会場で受検できるケースも広まってきています。
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■検定料の例(団体申込)
- 【一次試験を本会場で受ける場合】
- ・準2級…7900円(税込)
- ・2級…8400円(税込)
- 【一次試験を準会場で受ける場合】
- ・準2級…5700円(税込)
- ・2級…6400円(税込)
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―そもそもなぜ検定料が高額なのですか?
大学入試などの英検のスコアを利用するケースも増え、より高度なセキュリティーで試験問題を会場へ届けないとなりません。また、物流や紙のコストも上がっています。これまで以上に、より高いレベルでの試験実施が求められるので、その費用が検定料に含まれます。
英検とTEAPとの違いは?
―協会では英検とは別に「TEAP」という試験も行っていますよね。英検とどんな違いがあるのでしょうか。
英検は大学入試を想定していないとお話ししましたが、TEAPは逆に大学入試を想定して開発しています。高校生を対象にしていて、大学教育レベルにふさわしい英語力を測る試験で、英検と同様に読む・聞く・書く・話すの4技能を測ります。
内容も「英語で講義を受ける」「英語の文献を読み解く」など、大学教育で遭遇する場面を想定した「アカデミックな英語」に特化しています。
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■TEAPを大学入試に導入している大学の例
- ・上智大学/全学部統一入試(TEAPスコア利用型)
- ・早稲田大学文学部・文化構想学部/一般選抜(英語4技能テスト利用方式)
- ・青山学院大学総合文化政策学部総合文化政策学科/一般選抜A方式
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おすすめの勉強法は?
―協会としておすすめの勉強法はありますか?
英検は、特別な対策をしないと受からない問題にはしていません。例えば、高校生であれば、学校の授業で勉強をすれば通用します。
4技能を測る試験なので、人によって聞くことは得意だけど話すのは苦手など、得意不得意があるでしょう。英検の成績表は合否だけではなく、技能別のスコアやCEFRも記載しているので、受けてみて弱点を見つけ、そこを重点的に学ぶなど、バランスを見て学んでください。
英検では過去問を無料で公開しています。試験の形式になれるという点で教材としてぜひ使ってもらいたいですし、受検した問題を復習として解きなおすというかたちでも使えますよ。
資格取得はあくまで通過点
―高校生にメッセージをお願いします。
資格取得を目標ではなく「通過点」として、ぜひ未来につなげてほしいという思いがあります。英語にたくさん触れ読む時間を作ってほしい。自転車のようにある程度練習をしていかないと急には乗れないのと一緒ですね。3級程度の学習の途中であっても話そうとすれば通じるし、通じれば自信につながります。資格をきっかけとして、ぜひ実際の生活で使える英語力を磨いていってください。