下地美颯さん(沖縄・宮古高校3年)は、炎天下に放置された姉妹との出会いがきっかけで、児童虐待について考えるようになった。たどり着いた答えは「親たちにも助けが必要」だということ。「子供は社会みんなで育てるもの」だと弁論の全国大会で訴えた。(文・写真 椎名桂子)

もしかして育児放棄?

6年前の夏、下地さんは自宅の近所で、1日中外で遊んでいる幼い姉妹を見かけた。一人は小学校低学年、もう一人は未就学児のように見えた。沖縄の夏、炎天下に「水分補給も食事もしている様子がなく、ただ外に出されているその姉妹が気になって……」。

「子どもはみんなで育てる社会に」と訴える下地さん

姉妹に話しかけると、「ママが帰ってくるまでお家に入れない。ママは多分お仕事に行った」と返答。下地さんは姉妹の母親が帰ってくるまで姉妹と一緒に過ごした。

結局、母親が帰ってきたのは夜8時。下地さんの脳裏には「育児放棄」という言葉が浮かんだが、通報する勇気は出なかった。その経験がきっかけで、「児童虐待、育児放棄をなくすために自分に何かできることはないか」と折に触れ考えるようになった。

親へも助けが必要だ

はじめは「虐待される子どもたちをなんとか助けたい!」という思いが主だった。しかし自分も年齢が上がっていくにつれ、「虐待をしてしまう親の立場で考えてみると、保育施設の不足や膨らみ続ける子育て費用など、親も子育てのストレスや不安を抱えながら必死なのではないかと思うようになった」という。

そう考えられるようになったのは、高校教師の父と、中学校教師の母の影響も大きかった。児童虐待の事例を多く見聞きしていた両親と話をする中で、「虐待する親たちを責めるだけでは解決はできない、親たちにも助けが必要だと痛感するようになったんです」。

「子どもは社会みんなで育てたい」

下地さんは8月、鹿児島で行われた全国高校総合文化祭の弁論部門に参加。弁論の終盤、「子に過ぎたる宝無し」という言葉を使った。虐待される子どもに助けの手が必要なのと同時に、「子育てしている身近な大人を孤立させないこと、それこそが高校生である私たちにできること」と訴えた。

「『子どもを育てるのは親』から『子どもは社会みんなで育てる』に、根本的な考え方を変えていく必要がある。そんな社会にしたい」。下地さんたちが子育て世代の中心になるころには、今よりももっと子どもや子育て世代に優しい、温かい社会が実現できるかもしれない。そんな希望を感じさせてくれた。