畑の柵を作ってほしい、話し相手になってほしい……地域に住む高齢者の「日常生活の困りごと」を解決すべく、上田千曲高校(長野)の生徒が高齢者の自宅へ訪問する「レンタル高校生プロジェクト」を行った。活動を通して感じた地元の高齢者問題に対する思いを聞いた。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

地域のお年寄りの助けに

「レンタル高校生」の取り組みは、生活福祉科の3年生13人による課題研究の一環として行われた。地元の民生委員や地域包括支援センターの協力を得て、若者の手助けを必要とする高齢者を紹介してもらった。1回目の活動は5月、5グループに分かれて実施した。

レンタル高校生として活動した山本さん(中央)、田幸さんと企画を発案した等々力先生

「かがむのもつらそう」

山本知佳さん、田幸みいなさんは、80代女性から「部屋の掃除」の依頼を受け、衣類を畳んだり、ベランダ掃除をしたりと約2時間にわたり活動した。

「『(80代女性の方は)足腰が痛い』と言っていたんです。かがむのもつらそうで、私たちが簡単にできてしまう部屋の片付けのような日常的な動作にも時間がかかるとは、今まで思いもしませんでした」(田幸さん)

掃除以外にも「スマホの使い方を教えてほしい」と頼まれ、自撮りなどの操作をレクチャー。「雑談を交えながら教えていたんですが、その際に人や地域との関わりが普段は少ないこと、コロナ禍の影響で離れて暮らす家族にも会えていない現状を聞きました」(山本さん)。他のグループは、ベランダの掃除、ごみ捨て、畑の柵作りなどを行った。

90代男性からの依頼を受け、畑の柵づくりに取り組んだ

「話し相手になってほしい」

高齢者から寄せられた要望の中で、多かったのは「話し相手になってほしい」というものだ。夫が亡くなり一人暮らしになった女性を訪問したチームは2時間の活動中、一瞬たりとも話がやまなかったという。

「人との関わりが希薄になっていると感じました。私たちから高齢者とつながっていきたい」(山本さん)

地域の課題を見つけに行く

レンタル高校生は等々力守先生のアイデアだ。「『レンタル彼女・彼氏』のような代行業を、福祉を学ぶ高校生の活動にも応用できるのでは」と考えたのだという。「地域に暮らす高齢者の方々のお手伝いをする中で、地域の課題がより明確に見えてくると思ったんです」(等々力先生)

同校周辺は、高齢者世帯が多い地域。これまでも校内に高齢者を招いて交流会を行っていたが、ここ数年はコロナ禍で機会を失っていた。レンタル高校生を通じて、地域の若い世代と高齢者との直接対面や交流を再び活性化させる狙いもあるという。

「実際に高齢者の声を聞いて本当に困っていることを知るのが大切だと感じました」と田幸さん。山本さんは「家から出るのが大変な高齢者の方もいる。どこかに集まる場を作るだけじゃなく、私たちから『行く』ことがもっとできればいいなと思います」

スマホ教室を開催

6月には、レンタル高校生を通して見つけた「スマホの使い方が分からない」という課題を解消するべく、「高齢者向けのスマホ講座」を校内で開催。集まった約30人の高齢者にQRコードの読み取り方やアプリの使い方などを教えた。

校内で実施したスマホ講座に参加した高齢者たちに操作方法を教える田幸さん

等々力先生は「希薄になっていた地域の人と人とのつながり、高齢者との交流が生まれ、生徒たちが得た学びは大きい」と成果を話す。今後も月1回のペースで「スマホ講座」を予定。レンタル高校生の活動は、今秋に2回目の実施を計画中だ。