近年の飛躍が目覚ましく、スポーツクライミング界の〝新星〟と注目される安楽宙斗(あんらく・そらと、千葉・八千代高校2年)。4月のボルダー&リードジャパンカップでシニアの強豪選手を破って優勝し、8月にスイスで行われる世界選手権の日本代表に内定した。(文・小野哲史、写真・西村満)
保育園のころから木登りが好き
3種目あるスポーツクライミングのうち、複数の課題(コース)を制限時間内にいくつ登れたかを競う「ボルダー」と、10数メートルの壁に設定されたコースを登り、その到達高度を競う「リード」が安楽の主戦場だ。「ボルダー&リード」は、2種目の合計得点で争われる。
小学2年の夏、父と自宅近くのクライミングジムに行ったことがきっかけでクライミングに出会い、「夏休みは毎日のように通うほどハマった」と振り返る。「体を動かすのが好きで、保育園の頃からよく木登りをして遊んでいました。クライミングはその延長だった気がします」
間もなくさまざまな大会に出場するようになったが、たとえ結果が芳しくなくても「悔しいとかはあまり感じなかった」と安楽は言う。「登ることが楽しく、ひたすら登っていた」という日々が、中学2年生ごろまで続いた。
自分で考えた独自メニューで鍛え
より高いレベルを目指して、「登る」以外の取り組みを意識するようになったのが、3年ほど前から。「腕立て伏せや懸垂した体勢で20秒キープするなど、自重による筋力トレーニングを始めたのは去年の5月からです」と話す。月に2回くらい指導してもらうコーチはいるものの、基本的には安楽自身でメニューを考えて取り組んでいる。
「学校がある日は帰宅後、クライミングジムやトレーニングジムに行って3時間ぐらい体を動かすことが多いです。ボルダーは遠征に行きまくって、筋トレをしまくる。リードは近所に壁がないので、ジムで腕をパンパンに疲労させた状態で登る練習を繰り返します。休みは週1回ぐらいです」
自身については「肩を落として重心を下げ、力を使わない登りが強み。課題は筋力が足りない所」と分析する。「目の前の大会一つ一つを勝ちたいと思っているので、うまくいかなくてもあまりひきずらない」という。4月下旬に東京・八王子市で行われたワールドカップ・ボルダー第1戦では5位に入賞したものの、その後韓国で行われた第2戦では29位と惨敗。「初めての挫折で落ち込んだけれど、ここから上がるだけ」と、悔しさを次なる戦いの原動力に変え、5月下旬の第3戦、ソルトレークシティー大会では初の表彰台となる2位に食い込んだ。
数学が得意「一生懸命できる」
千葉の進学校に通う安楽は、数学の成績が優秀だ。「自分が好きなことは一生懸命できる。クライミングと同じで、数学は好きだから授業をしっかり聞いているだけ」
国際大会に出場する機会が増え、英語の重要性を感じつつある。英語がわからないと、「海外に行った時の生活だけでなく、本番のオブザベーション(壁を登る前に2分間で観察すること。他の選手と意見交換ができる)で孤立し、そこで負けてしまう」からだ。
遠征が続き、学校に行けない日も少なくない。しかし、「空いた時間は友達と食事に行ったり、映画を観たり」とリラックスする時間も作りながら競技と向き合っている。
8月の世界選手権の結果次第では、来年のパリオリンピック代表の座もつかめるが、「目の前の大会一つ一つ」という思いにブレはない。安楽が世界の舞台で羽ばたくシーズンは、すでに始まっている。
- あんらく・そらと 2006年11月14日、千葉県生まれ。大和田中卒。身長168センチ、体重55キロ。主な実績は、2022年世界ユース選手権リード優勝、ボルダー3位。22年コンバインドジャパンカップ(リード&ボルダー)でシニア大会初優勝。23年ボルダー&リードジャパンカップ優勝、ワールドカップ・ボルダー八王子大会5位など。