富士(静岡)山岳部は、創部60年を超える歴史ある部だ。8月、インター
ハイ(全国高校総体)で同部女子部員のチームが3年ぶり2度目の全国優勝を
果たした。大会出場メンバーに普段どんな練習をしているのかを聞いた。
(中田宗孝)

階段の上り下りで体力づくり

山岳部員は体力が肝心。水入りのペットボトルを複数入れた重みのあるザックを背負いながら、校内の階段の上り下りを20~30往復するなど、登山に備えた体力づくりが主な練習内容だ。

インターハイ(全国高校総体)出場をかけた県大会が近づくと、ザックを背負い校外を走る、往復約5キロの「歩荷ラン」の回数を増やすという。「途中、学校近くのお寺の階段の上り下りも繰り返します。(地上との標高差が約150メートルあるため)キツイですが、良いトレーニングになっています」(金指澪奈・3年)。

週末には「月例山行」と称し、同校のある静岡近郊の山を月平均3回のペースで登る。夏休みには3泊4日の夏山合宿を行う。昨夏の合宿は、富山県と岐阜県にまたがる黒部五郎岳(標高2840メートル)などで行われた。また、原則1泊2日の「秋山山行」もあり、昨年度は、山梨県と長野県にまたがる甲斐駒ヶ岳(標高2967メートル)を登頂した。

男子部員と実際に登山して練習

「信頼関係の強さが自慢」

金指は、かつて山岳部員だった母親の勧めで入部した。「入部したての頃は、山を歩く時間がとても長いことに驚きました。約12~15kgのザックを背負って早朝5時から登り始め、最長10時間歩き続けたこともあります」。それでも、普段の学校生活と大きくかけ離れた大自然の中を歩くのは、得難い経験だという。

インターハイで炊事に挑む部員たち

山での濃密な時間を共に過ごす部員たちの絆は強い。「登山中に疲れの見える部員がいれば、荷物を背負ってあげる。そんな助け合いが自然にできます。部員同士の信頼関係の強さは、私たちの部の自慢」と誇る。

山で食べる料理は格別

部員たちが装備する登山グッズの中には、トイレットペーパーなんて意外なアイテムも。「山小屋のお手洗いに紙がないことがあるんです。水道施設のない場所で炊事することもあり、その時はトイレットペーパーで食器を拭きます」。長時間歩く日中は、カロリーメイトやウィダーinゼリーといった「行動食」で済ませるぶん、夜食の山料理は格別だ。「部で作る『肉丼』が好きです。市販のタレを付けただけの簡単な味付けなのにおいしいんです!」

金指オススメの肉丼

金指は高1の頃に登った、長野県と岐阜県にまたがる槍ヶ岳(標高3180メートル)での体験が忘れられないという。「登山経験の少なかった当時の私とって『山ってすごいな』と感じさせてくれた思い出の山」。高校卒業後も登山は続ける。「部員だった仲間たちと登りたいですね。キツイと思う時もあった。ですが、山で感動したことの方が心に強く残っているんです」

天気図読む技術も身につける

インターハイではどんなことで競うのだろうか。1校4人編成の団体戦で、男女別で行われる。全国大会は3泊4日かけて、歩行技術やテント設営など項目別に審査され、合計100点満点中、もっとも高い点数を獲得したパーティが優勝となる。大会期間中の各パーティのマナーも審査項目だ。

部は毎年、秋ごろから男女共にインターハイ出場に向けた練習を本格化させる。普段よりザックの重量を増やして歩荷ランに臨んだり、登山に関する知識を問うペーパーテストの勉強をしたりと、体力・学習、両面のレベルアップを図ってきた。ニュース番組のお天気コーナーで目にする「天気図」の担当となった部員が特に大変だという。「ラジオの気象予報を毎日聞いて、天気図の用紙に等圧線などを書き込んでいきます」

インターハイ競技中。協力し合って地図を読む

近場の山で、重さ17kgのザック(男子部員は21kg)を背負って早く登るタイムレースが実施され、大会出場メンバーの部内選考も行われる。「早く登ることも重要ですが、大会審査員は、息切れしてないか、下りを滑らずに下山しているかといった細かい部分もチェックしています。なので、練習も大会でも(歩行スピードは意識しながら)足の親指に力を入れながら、一歩一歩しっかり歩くことを心掛けています」

雑談で気持ち盛り上げ

金指はインターハイを「県大会(1泊2日)よりも長く、精神的に疲れますが、みんなで雑談して気持ちを盛りあげました」と振り返る。大会中盤には、その時点での自パーティの点数を知ることができるが、自分たちの点数が予想以上に低く、ほんの少し気落ちした。「『まだ終わりじゃない。後半頑張れば勝てるよ!』と、みんなで励まし合って乗り越えました」

インターハイに挑む富士山岳部の女子部員4人

結果は、98.6点の高得点を獲得しての優勝。金指ら4人は、まさに頂きの上に立った。最高の結果を受けて、金指が思い浮かべたのは、支えてくれた人々の顔だ。「大会前から友人や先生方が私たちをずっと応援してくれました。そんな方々の存在がいかに大きかったかを感じています」 

部活データ

部員34人(男子28人、女子6人)。活動は週6日。インターハイ(女子)にはチーフの金指、佐野真紀(3年)、山口桃佳(3年)、竹内夏希(2年)の4人で挑んだ。