坂田莉心さん(東京・玉川学園高等部3年)は、障がいのある子どもに同じ容姿、特徴を持つ人形を手作りしプレゼントする「my doll」という活動を行っている。「障がい者と健常者の壁をなくしたい」一心で、ひたむきに人形作りに挑む姿を伝える。(文・越沢琴奈、写真・本人提供)

兄の障がいがきっかけ

坂田さんの3歳上の兄は、けいれんを繰り返す「ドラベ症候群」という病気と重度の知的障害を持ち、歩行や会話が難しい。兄と過ごす中で、小学生のときから「ジロジロ見られるのが嫌だな」と感じ、健常者と障がい者の間の壁を失くすことに関心を持ち始めた。

中学生のときに自由研究の時間で障がいをテーマに調べ学習をして、「障がいがある子どもに同じ容姿、特徴を持つ人形を手作りしてプレゼントする」という海外の活動を見つけた。「障がいを障がいでなく、『ひとつの個性』として捉えられたらいい」と考えていた坂田さんは、「日本でも同じ活動ができれば」と思い立った。

坂田さんの活動は「TOKYO STARTUP GATEWAY2022」で応募総数1114の中から「Tokyo innovation賞」に選ばれた

高校2年生のときに大学受験準備を始め、「将来やりたいこと」について向き合った。今まで送ってきた人生の振り返りや、坂田さんの性格について自己分析を行った結果、「人形をプレゼントする活動を実現したい」という思いが強まった。「障がいのある子どもと同じ容姿の人形をプレゼントすることで、人形をもらった子どもが自分自身を認めることに繋がる」という思いから、行動に移した。

こだわりが詰まったオリジナルデザイン

まずは坂田さんの兄の友達など、身近な人に人形を渡すところから始めてみた。その後、クラウドワークスを使って「活動へ賛同するか」「(障がいのある子どもの特徴を反映した人形のように)日本で多様性に配慮した人形をプレゼントする活動をどう思うか」「自分の子どもに障がいがあった場合、人形をもらったらうれしいか」とアンケートを取った。

手作りの人形を子どもたちにプレゼント

その結果、「人形がほしい」という声が多くあり、活動を大きくするためにインスタグラムを開設。人形の依頼者とのやりとりや、人形をプレゼントした子どもの写真の発信を始めた。2023年2月までに、15人の子どもに人形をプレゼントしている。

人形作りは独学で習得した。本や動画を使って作り方を探したほか、自身の通っていた幼稚園の先生に連絡をして手芸を学んだ。

人形を製作する様子。すべて1人で作っている

人形にはたくさんのこだわりが詰まっている。大きさは子どもが抱きやすい50cmほどで、布の肌触りもよい。身体的な特徴を同じにするだけでなく、依頼者から送られてきた子どもの写真を参考に服を着せたり、その子の好きなキャラクターやその子の持つ思い出を反映させたりしている。

アンケートを取った際には「(もらっても)うれしくない」「資源の無駄」と辛辣(しんらつ)な意見をもらうこともあった。それでも活動を続けたのは、人形を受け取った子どもたちが喜ぶのを見てきたから。「その子の笑顔が見られた瞬間に『やってきてよかったな』と思います」

こだわりの人形たち。一体一体デザインが異なる

すべて1人で活動

現在、この「my doll」の活動は、すべて坂田さん1人で実施。これまで活動にかかる費用も、すべて坂田さん自身が賄ってきた。部活や勉強、大学受験の準備などと並行し、深夜の時間や休日を利用して人形作りに奔走していたそうだ。現在は活動を継続させるために、クラウドファンディングを行っている。

そして「my doll」の活動を掲げ、坂田さんは、東京から起業家を輩出することを目的としたビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY2022」(東京都主催)に出場。「Tokyo innovation賞」を受賞した。高校卒業後は大学に進学し、心理学を学びながら人形作りも継続。「障がいを抱える子どもたちに人形が与える影響」といったテーマで研究し、より良い人形作りを目指す。