「君の名は。」「天気の子」など数々の話題作を生み出している新海誠監督に、高校生記者がインタビュー。「人に流されないためには?」「監督のやる気スイッチを知りたい!」といった読者から寄せられた質問に、言葉を選びながら丁寧に答えてもらいました。最新作「すずめの戸締まり」の制作エピソードもたっぷりお届けします。(取材・藤原春=高校生記者、構成・中田宗孝、写真・幡原裕治)

「はっきりモノが言えない」新海監督 自分の意見の伝え方は

―読者の高校生からの質問です。「自分の意思や意見をはっきり言わず、曖昧な返事をしがちで、人の意見に流されてしまうこともあります。どうしたら『自分の軸』をもてるようになれるでしょうか」

僕も……人にはっきりとモノを言えないタイプなんです(苦笑)。仕事の場では、アニメーターの方の仕上げた絵が、僕のイメージしていたモノと違っていて「もっと、こうしてほしい」と言わないといけない場面があるんですね。でも、はっきり「やり直してください」とは言えないんです。

新海誠監督

はっきり言えない代わりに、良かった部分を探して、それを伝えてから「すてきな絵なんだけど、この作品のために必要な絵とは違うから、こんなふうに描いてみてください」と。まずは「自分が言われたらうれしいな」と感じる言葉を相手に掛けて、本意を伝えるようにしています。

自分が苦手だと感じている行動を、突然変えるのは難しいですよね。自分の意思や意見を、こういう言い回しでなら相手に伝えられるという言葉を見つけて、時に相手の意見も尊重しながら、自分自身をうまく操縦してみてください。

夏休みの宿題は後回し 社会人になって変われた理由

―続いての質問です。「私は物事を後回しにしがちで、つい期限ギリギリまでテスト勉強などを放置してしまいます。どうしたらやる気スイッチをオンにできるのですか。アドバイスをください」

僕も夏休みの宿題を最後の最後まで取り掛からないタイプの子どもだったんです(笑)。でも、社会人になってから、先延ばしにしなくても、やらなければいけないことを今できるようになっていったんですね。

やる気スイッチのオンの仕方は人それぞれでしょうけど、僕の場合は「未来の自分」を思い浮かべるようにしています。やらなきゃいけないことを後回しにすると、「未来の自分自身に大きな迷惑を掛ける」んですね。

新海誠監督に取材をする高校生記者

僕の場合は、映画制作の過程で自分がやらなければならない何かを先延ばしにしてしまうと、本当に大変になっていくんです。先延ばしや後回しにした結果、その先に自分に起こる出来事をシリアスに想像すると、「今やらなきゃ」となるのではないでしょうか。

10代に向けた映画を作りたい

―新海監督の近作では、高校生はじめ、10代の少年少女たちの物語を描いています。なぜ中高生を主人公にしているのでしょうか。

僕は、アニメや漫画が大好きで、それに全力で没入した10代を過ごしていました。「あのころの僕と同じように、目いっぱい感情移入してアニメ作品を楽しんでほしいな」と思うと、10代の方に向けた映画を作りたいなという気持ちになるんです。

作品づくりにあたって、今の若者たちの感情や行動をすごくリサーチしたりはしていませんが、かつて自分が高校生だったときも、今の高校生たちも、好きな人が自分を好きになってくれないつらさ、勉強や将来への不安、その揺れ動く感情の本質はあまり変わってないと思うんです。

もちろん、スマホやSNS、コロナ禍など、環境面は僕の高校時代と比べて大きく変わりました。そんな時代の変化は、僕自身の想像力で補っていくんですね。今、僕が高校生だったらどう思うかな、と。そして、物語を作っていくんです。

「椅子」キャラの動きにこだわり

―最新作「すずめの戸締まり」の劇中、草太は、ある原因によって鈴芽の部屋にある木製の「椅子」の姿となります。草太が閉じ込められた椅子の動きは、どのようなアイデアで生まれたのですか。

今作の「椅子」のような無機物を柔らかく、生き物のように描けるのがアニメーションならではの手法の一つではあります。ですが、今作で僕は、「無機物を無機物のまま動かす」ことを選択しました。

椅子の脚をぶよぶよ曲げて動かさず、椅子の脚の本来の硬いままで、動かせるのは付け根の部分だけ。そんな椅子の動きにすることで、椅子になってしまった草太の不自由さ、狭くて小さい場所に閉じ込められた彼の窮屈さを表したいと思ったんです。

「すずめの戸締まり」より

―「椅子」の動きは、とても愛らしくコミカルです。気に入っている椅子の動きはありますか。

椅子になった草太は、鈴芽以外の人に動いているところを見られると騒ぎになってしまうので、街中では鈴芽が椅子を持って移動しているんですね。時折、何かが起こったときに鈴芽の手から離れて飛び降りて走りだすんです。

その、必死にもがいている椅子(草太)の動きは、アニメーションの技術的には実はとても手間がかかっていて、そのぶん、思い入れもあって好きですね。

【取材後記】目標へ突き進む覚悟がかっこいい

高校生記者の藤原春さん

新海監督は一つ一つの質問にとても丁寧に答えてくださるユーモラスで優しい方で、取材中は緊張も忘れ、お話に聞き入ってしまいました。監督は20代で会社員をやめ、クリエイターとして生きることを決意していますが、その際、人から反対を受けても、気持ちは一切揺らがなかったといいます。監督の「夢中だったので、不安や恐怖を感じることはなかった」という言葉が印象に残っています。目標に向かって突き進む強い覚悟が本当にかっこいいと思いました。

一方で、自分の要望を伝える際には、良いところも指摘し、その上ではっきりと意見を伝えるようにしているとおっしゃっていたことも心に残っています。お話を聞く中で、細かい気配りや監督の優しいお人柄の伝わる場面がたくさんありました。

今回の取材を通して、新海監督がたくさんの人から愛される作品を生み出し続けている理由が改めてわかった気がします。(高校生記者・藤原春)

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しんかい・まこと 1973年2月9日生まれ。長野県出身。2002年、個人で制作した短編アニメ「ほしのこえ」でアニメーション監督として商業デビュー。16年、原作・脚本・監督を務めた劇場アニメ「君の名は。」が記録的な大ヒットとなり、国内外で数々の映画賞を受賞。主な原作・脚本・監督作は、「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」「天気の子」など。

「すずめの戸締まり」

九州に暮らす女子高校生の鈴芽(すずめ)(声:原菜乃華)は、ある日、「扉」を探す旅をしている青年・草太(声:松村北斗)と出会う。草太のことが気になった鈴芽は、彼を追って山中の廃虚にたたずむ古びた扉にたどり着く。そこで鈴芽は、草太が災いをもたらす扉を閉める「閉じ師」だと知る。そして、ある出来事をきっかけに、草太は鈴芽が幼いころに使っていた椅子に姿を変えられてしまい……。11月11日(金)全国東宝系にて公開。 (C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会