「君の名は。」「天気の子」など数々の話題作を生み出している新海誠監督に、高校生記者がインタビュー。「好きなことを仕事にするって悪いこと?」「プレッシャーへの向き合い方を知りたい!」といった読者から寄せられた質問に、言葉を選びながら丁寧に答えてもらいました。最新作「すずめの戸締まり」の制作エピソードもたっぷりお届けします。(取材・藤原春=高校生記者、構成・中田宗孝、写真・幡原裕治)

親に反対されても「やりたい覚悟」はあるか?

―読者の高校生からの質問です。「大好きなアニメの業界に就職したいのですが、家族から『自分の好きなことを仕事にするのは大変だ』と反対されています。新海監督は、好きを仕事にすることについて、どんな考えをお持ちですか?」

僕は大学卒業後に就職してサラリーマンとして働いていたときに、どうしても「自分の物語」を創作したくなり、会社勤めを辞めて、今のアニメーション監督を始めました。その意思を親に伝えた時には「そんなのうまくいくはずないから会社は辞めるな」と言われました。僕も同じような状況だったんです。

新海誠監督

でも、誰に反対されても、創作への気持ちは止められませんでした。もしご両親に反対されて「やっぱりやめておこうか」と考えちゃうのだとしたら、それはきっと自分が本当にやりたいことではないと思うんです。たとえ親に反対されても、それでもやりたいのであれば、それは覚悟をもってやりたいと思っていることなので、挑戦するべきです。

―当時、自分の決断が怖いと感じた瞬間はなかったのですか? 私なら親に反対されたらグサって刺さり、やりたい気持ちがあっても不安が大きくなりそうです。

「アニメを作りたい気持ち」のほうが強くて、先が見えなくても怖くはなかったです。サラリーマン時代の貯金が少しあったので、まぁしばらくは生活に困ることはないだろう……と(笑)。

個々の性格によって違うとは思うのですが、僕は不安よりも夢中で創作に没頭しました。少し残酷に聞こえてしまうかもしれませんが、好きなことを仕事にすることに不安のほうが大きかったり、つらくなってやめてしまうのだとしたら、「そこまで」なのかもしれない。それでもやってみたいと行動に移して、始めてスタートラインに立てるのだと思います。

ベストを尽くせばプレッシャーに向き合える

―続いての質問です。「大事な試合を前に緊張したり、将来への漠然とした不安や親の期待など、プレッシャーを感じながら日々過ごしています。新海監督は緊張や周囲からの大きなプレッシャーを感じるとき、どのように向き合っていますか?」

僕の初めての短編作品「ほしのこえ」を個人制作したときに、東京・下北沢にある50席ほどの小さな劇場で上映する機会にめぐまれて、観客の前で舞台あいさつをしたんです。そのとき、質問とは緊張の質が少し違うのかもしれませんが、本当に怖くて足が震えて、すごく緊張して、自分が何をしゃべったのかまったく覚えていません。でも舞台あいさつを続けていくうちに、いつしか慣れて、「すずめの戸締まり」の完成披露試写会で5000人の前で話す機会があったのですが、そんな時でも以前ほど緊張しなくなったんです。

新海誠監督に取材をする高校生記者

きっと、僕はどこかのタイミングで「一度ベストを尽くしているから、緊張する必要はないや」と考えるようになったんだと思うんですね。映画を完成させた時点で、自分のベストは尽くした。その後の舞台あいさつなどは、映画を作ることに比べてたら……。

緊張やプレッシャーを感じる場面になったら、自分が費やしてきたこれまでの努力や、練習を重ねた日々を思い返してみてください。自分がベストを尽くしたことが、プレッシャーと向き合う力になると思います。

試作で監督自ら全キャラアフレコ

―新海監督が手掛けた最新作「すずめの戸締まり」の主人公たちの声を担当する原菜乃華さん、松村北斗さんには、どのような演出を行いましたか。

オーディションで鈴芽役を菜乃華さん、草太役を北斗君と決めた時点で、「この2人に託そう」という強い思いがありました。ただ彼らは、声優をするのは初めてです。分からないことやたくさんの不安があると思いますから、約1カ月半を費やして、じっくりアフレコ収録をしてもらったんです。

「すずめの戸締まり」より

物語全編を一度アフレコしてみてから、収録した声を3人で聞き直して、それぞれが気になった部分について意見交換しました。その中で、しつこく何度もアフレコを繰り返しながら完成までもっていきました。お2人からは、役者として本当に素晴らしい声をいただけたなと感じています。

―新海監督は、まず一人で作品を完成させるのが制作手法だとうかがいました。試作段階ではキャラクターの声も性別関係なく、全役、監督自ら声をあてているのも驚きです。

僕は最初に、絵コンテをつないだビデオコンテという映画の設計図を作るのですが、少女のせりふも僕が感情を込めてしゃべっているので、アフレコ前に声優さんに見せることで「こういうテンションの声がほしい」という、ガイドの役割も果たしているんです。

北斗君が演じる草太の最初のせりふは、鈴芽に向かって「ねぇ、君。この辺りに廃虚はない?」から始まりますが、この「ねぇ」という言葉の響きは、冷たそうにも優しそうにも言うことができますよね。北斗君、菜乃華さんはじめ、声優さんたちには、いろいろなバリエーションの声の芝居をしてもらって、最終的なOKテイクを僕が判断していました。

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高校生新聞編集部LINE公式アカウントとお友達になってから、「新海誠監督色紙希望」と明記の上、「学校名·学年·性別·記事の感想」をメッセージに書いて送ってね。応募資格は高校生·中学生に限ります。11月30日締切。当選者には編集部からメッセージでお知らせします。

しんかい・まこと 1973年2月9日生まれ。長野県出身。2002年、個人で制作した短編アニメ「ほしのこえ」でアニメーション監督として商業デビュー。16年、原作・脚本・監督を務めた劇場アニメ「君の名は。」が記録的な大ヒットとなり、国内外で数々の映画賞を受賞。主な原作・脚本・監督作は、「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」「天気の子」など。

「すずめの戸締まり」

九州に暮らす女子高校生の鈴芽(すずめ)(声:原菜乃華)は、ある日、「扉」を探す旅をしている青年・草太(声:松村北斗)と出会う。草太のことが気になった鈴芽は、彼を追って山中の廃虚にたたずむ古びた扉にたどり着く。そこで鈴芽は、草太が災いをもたらす扉を閉める「閉じ師」だと知る。そして、ある出来事をきっかけに、草太は鈴芽が幼いころに使っていた椅子に姿を変えられてしまい……。11月11日(金)全国東宝系にて公開。 (C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会