木下航人君(岡山・明誠学院高校3年)が描いた「通話記録」は、コロナ禍のコミュニケーションを風刺した油絵作品だ。同作は、「全国高校総合文化祭東京大会(とうきょう総文2022)」の美術・工芸部門で展示される。作品の制作エピソードや、漫画家を志す自らの創作活動について語ってもらった。(文・中田宗孝 写真・学校提供)

最長10時間、毎日絵描きにどっぷり

―木下君は、学校では特別芸術コース美術・デザイン系の授業を受け、放課後になると美術部で活動という学校生活を過ごしていますね。

はい。ずっと絵を描き続けている毎日です。授業、部活、そして帰宅後も3~5時間描くこともあり、平日で長いときは10時間くらい絵を描いたこともありました。高2からは、人物画を中心に描いています。

―なぜ人物画を描き続けようと思ったのですか。

僕は漫画家を目指していて、将来的には人物を描く機会が増えるだろうと思ったので、高校生のうちから、人物画を描く枚数を重ねて基礎力を積みあげていく必要があるなと。

美術部では、主に「具象画(対象物を具体的、見たままに描きあらわした絵画)」で人物を描いているんです。顔や体の凹凸などを意識しながら、立体的でリアルに描く技法を学んだことで、幼いころからよく描いていたイラストや漫画タッチの絵とは違った、自分の表現の幅が広がったなと実感しています。

高2の秋、約2カ月の制作期間で「通話記録」を完成させた。「とうきょう総文2022」の美術・工芸部門(東京都美術館、7月31日、8月2~4日)に展示される

弟とのZoomを描く「感情読み取りづらい」風刺込め

―とうきょう総文2022の美術・工芸部門に出展される作品「通話記録」の制作動機やテーマを教えてください。

スマホでZoomを使ってオンライン通話をする僕と弟を描きました。作品内の小さい画面に写るのが2歳下の弟です。スマホの画面に写る何かを描きたいと考えていて、その中でZoomがひらめいて、アイデアを広げていき作品に仕上げました。

ここ数年、新型コロナウイルスの影響で、人との会話、学校の授業、会社の仕事がリモートになることが増えました。この絵は、そんな時代の流れに風刺を込めて、描いています。

僕自身、高校入学から約2カ月間休校となり、それからはずっとコロナ禍…。それもこの作品を描いた動機の一つです。

僕と弟を描くことで、家族や身近な相手との対話も表現しています。家族間でも、ZoomやLINEを使って会話することが増えたなと感じていて。

―こだわりの箇所を教えてください。

対面で話すよりも、ZoomやLINEを介して対話すると、相手の感情が読み取りづらいな、何を考えてるんだろうって感じていました。絵の中の僕と弟の表情は、あえて冷たく感じるような表情で描いているんです。

ほかにも、髪の毛の描き込みにも力を入れていて、僕の髪のハイライトを入れている部分は「面相筆」を使い、1本1本、線を引くように描いています。

―実際のZoomにはみられない、文字やノイズも描かれていますね。

緑の文字は、(米国SFアクション)映画「マトリックス」に登場する流れる文字(マトリックス・コード)から着想を得て、似たモノを遊び心で取り入れてみました。4色で表現しているノイズ(砂嵐)は、1つ1つ細かくピクセル画を描きました。ノイズを入れることで、作品をみたときに異様感を演出する意図があります。

油絵作品「通話記録」と制作者の木下君(写真は2月に行われた「第54回岡山県高等学校美術展」より)

―木下君は、美術・工芸部門の会場に訪れる予定だそうですね。現地で楽しみにしていることはありますか。

芸術に励む同世代の方が全国から集まる貴重な機会なので、積極的に交流して友だちを作りたいですね。もちろん、展示作品も鑑賞して刺激を受けたいです。

僕の作品の実物を近くでみると、ノイズ部分のピクセル画の迫力を感じたり、まつ毛を細かく仕上げていたりと、画像でみるのとは違った気づきがあると思います。

さまざまな絵柄をもつ木下君の他作品。愛鳥週間のポスター用に描いた「眼力」(右)。イラスト風のタッチで仕上げた「ひまわり畑の少女」

大学生漫画家デビューを目指し

―漫画家を志すようになったのはいつからですか。

小学生から思い描いていました。そのころから絵を描くのと同じくらい、漫画を読むのが好きで、「名探偵コナン」の模写などから始まり、自然と自分でも漫画を描くようなっていきました。

部活では具象画を描いているので、漫画やイラストを描くのは家でやっています。大学に進学したら、在学中のプロ漫画家デビューが目標です。

漫画やイラスト制作に没頭する自宅の作業デスク。尊敬する漫画家には、手塚治虫さん、大友克洋さん、浦沢直樹さん、吾峠呼世晴さん、芥見下々さんの名を挙げる

―画力を伸ばすために、普段どんな練習をしていますか。

「クロッキー」と呼ばれる、人物などを5~10分間の短時間で素早く描写する練習をよくしています。これを繰り返して、「人のカタチ」を自分のモノにするんです。漫画であれば、人気漫画家さんの作品の1話をまるまる模写しています。

「とあるカップルの休日」と題した木下君オリジナルの2コマ漫画

―自身の絵柄の個性はどこにあると思いますか。

具象画を学んだことが自分の絵柄の個性になっています。例えば、イラストは目や顔を大きくしたり、背を小さくしたりとデフォルメするような描き方が一般的。一方、僕が描くイラストの場合、現実的なタッチ、リアル寄りというか、具象が混ざったような絵柄になるなと感じていて、それが自分の個性や強みだと思います。

校内の美術室のパネルに記した木下君の目標。「自分の夢や目標は宣言するようにしています」と話す。SNS(https://twitter.com/kino_ac_1018)では、描いた絵を精力的に発信する

―作品づくりに必要なインスピレーションや感性をどのように磨いていますか?

自分の内側にあるモノを表現していくだけでは、いずれアイデアが枯渇すると思っています。漫画や映画、日本画といった芸術作品に多く触れて、それらを自分の中に吸収し、たくさんの人の心を動かすような絵や漫画を届けたいです。

キャンバスに向かう木下君