坂戸高校(埼玉)美術部は、美術部の全国大会の一つ「全国高校総合文化祭美術・工芸部門」に8年連続で出品している実力を持つ。部長や顧問らに、部活をどうまとめ、作品作りをしているのか聞いた。(文・野嶋敦子、写真・椎木里咲)

油絵を制作、未経験からスタート

部員は20人。主な活動は油絵制作で、入部を機に始める人がほとんどだ。

左から井上さん、青木先生、竹内さん

部長の竹内緋里(あかり)さん(2年)は。高校から油絵を始めた。「私はもともと絵が苦手。でも、美術の授業で絵を描くことに興味を持ち、友達と一緒に入部しました」(竹内さん)

井上睦弓(むつみ)さん(3年)も、高校から美術部に入部。中学時代はバスケ部だった。「昔から絵は好きで、中学のころから趣味で描いていました。美術部を見学して先輩のすばらしい作品を見て、入部を決めたんです」

初心者でも取り組みやすく指導

油絵は絵の具をはじめとする画材の扱いが難しく、ハードルが高いと感じられやすい。顧問の青木里美先生は、初心者が安心して取り組めるような指導を心がけている。

「初心者には静物をモチーフに、まずは描いてみるのをすすめています。そして、デッサンや筆の持ち方、色の重ね方、混色などを練習させていき、その都度、その場に応じたアドバイスをしています」

【1日のスケジュール】「7分間クロッキー」で描く力を鍛える

活動日は週5日。部員たちは部室へ来たら個々に準備を始め、各自制作にとりかかる。展覧会の締め切りが近い場合は、土曜日にも自主的に制作を行う時もある。

テーマは、先生と相談しながら決める。モチーフとなる写真や実物を参考にエスキース(下絵)を作成し、キャンバスに定着剤をかけてアクリル絵の具で下地と基本色を塗る。

対象を観察しながら、集中して色を重ねていく

部員はお互いに、配色や濃淡、立体感の出し方などについて率直な意見を交換しながら、作品の質を高めている。「部員同士の気軽な意見は参考になるし、みんなの作品から刺激をよく受けています」(竹内さん)

部活終了前は、毎日欠かさず「7分間クロッキー」を行っている。クロッキーとは、短時間で素早く対象を描く技法だ。毎回一人がモデルになり、他の部員がモデルを囲ってすばやく描いていく。限られた時間内に形を描き切る素早さが求められる。瞬間的な判断力と描写力を鍛えている。

<ある日のスケジュール>

15時35分 授業終了

16時15分~17時53分 部活開始。静物をモデルに、各自で油絵を制作

17時53分~18時 7分間クロッキー

18時~18時15分 連絡事項や片づけ

【年間スケジュール】文化祭ではオリジナルグッズを販売

高校生国際美術展、埼玉県高校美術展に向けて作品を制作している。夏は文化祭に向けて準備。昨年はキーホルダーやオリジナルのトレーディングカードを販売。卵をモチーフに石粉で制作したキーホルダーは完売した。

年末には部室で忘年会を開き、部員同士で鍋を囲みながら親睦を深めている。

文化祭で販売したキーホルダー(学校提供)

 

<年間スケジュール>

4月 高校生国際美術展に向けて制作(2・3年生)

5月 油彩の静物画制作(1年生)

6月 デッサンを中心に練習(2・3年生)

7月 10月にかけて埼玉県高校美術展に向けて制作

8月 全国高校総文祭、高校生国際美術展。文化祭の準備、開催

11月 埼玉県高校美術展

12月 デッサンを中心に練習

1月 5月にかけて高校生国際美術展に向けて制作

【大会に向けた流れ】「実物」を観察し絵に落とし込む

今年7月、全国高校総文祭美術・工芸部門に、井上さんの油絵「刻み重ね流れる」が出品される。「時間」をテーマに、石川啄木の『一握の砂』からインスピレーションを得て、時の流れやはかなさを独自の視点で描いた作品だ。約5カ月をかけて制作した。

井上さんの作品「刻み重ね流れる」(学校提供)

テーマ決めを始めたのは、昨年7月中旬ごろ。「水や砂をテーマにしたい」と考え、昨年まで同校で指導していた顧問の先生に相談。「実際に水や砂に触れてみてはどうか」とのアドバイスを受け、水槽に水をためて観察した。8月には構図を決定し、布や砂、水を並べて撮影した。

9月初旬から、撮影した写真をもとにエスキース(下絵)を開始。1日で下書きを終えた後は、1~2日かけてアクリル絵の具で色付けをする。その後、油絵の具を使って描き始めた。

テーマや構図を紙に書きだし、作品のイメージを練っていく

全体的に色を載せ終わったのは11月の初旬だ。そこからさらに色を重ねるなど微調整をして、11月末に完成した。

作品は、部員による投票で、学校の代表として埼玉県高校美術展に出品され、優秀賞を獲得。全国高校総文祭への出品が決まった。

【上達のコツ】「周りの意見」を聞いて取り入れる

井上さんは「周りの人の意見を積極的に聞いて作品に反映している」という。「都度、写真を撮って制作途中で振り返り、改善に生かしています。記録にもなりますし、徐々に上達しているなと思います」

美術部員の油絵作品。展覧会前は美術室に所狭しと作品が並ぶ(学校提供)

青木先生は「少人数だからこそできる指導がある」と話す。「素養のある生徒たちが集まってくれたので、彼らの可能性を信じて、一人ひとりの作品や制作の意図に寄り添いながら、これからも技術的なアドバイスや精神的なサポートを続けていきたいです」

坂戸高校美術部

 

部員20人(3年生8人、2年生6人、1年生6人)。週5日、美術室で活動。高校生国際美術展には16回出品。