高松奈々さん 慶應義塾大学総合政策学部1年(神奈川・フェリス女学院高校出身)
 

高松奈々さんは現役大学生とお笑い芸人「たかまつなな」の2つの顔を持つ。2月には、日本で一番面白いピン芸人を決める「R-1ぐらんぷり」で応募者約3700人の中から難関を突破して準決勝に進出した。大きなフリップを抱えて自宅とキャンパスとライブ会場を移動する多忙な日々だが、ネタが一番思い浮かぶのは、実は授業中という。 (中田宗孝)

 

「R-1ぐらんぷり」では、フリップを使って「お嬢様言葉」のネタで臨みました。R-1初参加は高校1年の時。本番では大すべりして1回戦敗退……。高校2年はすべるのが怖くて応募できず、高校3年で2回戦に進みましたが、その上に進むには壁を感じました。

 お笑いは、フリップをめくるタイミングが一瞬ずれただけで笑いの量がまったく変わる世界です。この1年間、高校3年の時の敗因を分析し、できることは全部やるつもりで、ネタを磨き続けてきました。芸歴20年以上の方も出る中で3回戦を突破し、準決勝まで勝ち残れたことは大きな自信になりました。

将来はお笑い芸人になると決めていたので、高校2年くらいまでは大学進学なんてまったく考えていませんでした。私の夢は、お笑いを通して社会問題を提起することです。例えば、原発の問題について単純な賛否ではなく、幅広い見方を笑いとともに伝えたい。だけど、そのためには私自身の知識やモノの見方がまだまだ足りないと気づき、社会や文化や科学などの物事を広く見られるように、大学進学を決心しました。 

 

 受験はAO入試一本に絞りました。高校3年の夏休みは、お笑いの大会や、国連平和大使の活動もあってすごく忙しかったのですが、それと並行して、AOの書類作成に必死に取り組みました。睡眠時間は毎日1時間あったかどうか。布団で眠った記憶はありません。

 志望理由書には芸人らしく〝ボケ〟を入れました。本番の7分間のプレゼンテーションには、譜面台とセンターマイクを持ち込み、大学入試に絡めたお笑いのネタを披露し、面接官の方に笑っていただきました。もちろん、大学に入ってやりたいこともちゃんと盛り込みました。

最後に「今日ネタをやるか迷いましたが、私はこれからも勇気を持って自分のやりたいことをしていきたい」と正直に話しました。すると、面接官の教授が「すごく良かった。君はもっと自信を持っていいよ」と励ましてくれたんです。芸人の自分を隠すことなくアピールして本当に良かったです。

 

 大学では、少人数のゼミ形式の授業も、大人数の授業もそれぞれ学べることがあります。多くの人に政治に興味を持ってもらうための方法を模索したり、インタビューやコミュニケーションの方法について研究したり……すごく面白いです。

日本史の授業も高校より面白かったですね。史料によって歴史は書き換えられることや、歴史の解釈は一つではなくさまざまな見方があることを学べます。例えば、高校の歴史の教科書10冊を集め、日清戦争についての記述を読んで、生徒の立場、教師の立場、政府の立場でそれぞれ「よい教科書」とはどれかを考えさせたり。とても新鮮でした。

実は授業を聴いているとすごくネタが思い浮かぶんです。「先生のその観点面白い!」と思うと、それがネタのヒントになるんです。知識だけでなく、先生のモノの見方を学ぶ。その意識を持つと大学の授業はすごく意味があると思います。

R-1で結果を出せましたが、守りに入りたくはない。ウケると分かっているネタだけやっても成長できません。お笑いを通じて社会問題を提起する。自分の夢を忘れずに、すべることを恐れず新しいネタにチャレンジしていきたいですね!