プラスチック製品のごみが微細な粒子となり、海洋汚染の原因となる「マイクロプラスチック問題」。宮城県農業高校「農業経営者クラブ」のメンバーは、水田稲作で使うプラスチックカプセル肥料の残骸が海洋汚染につながっていることに注目。環境に優しい肥料を提案し、4月から販売が決定した。(文・写真 中田宗孝)

大量のプラスチック片…正体は肥料

メンバーの目黒花織さん(2年)らが海岸の清掃ボランティアをしていたとき、プラスチックの小さな殻が大量に見つかった。殻の正体を調べてみると、使用済みの水田用肥料だったのだ。この出来事をきっかけに、目黒さんたちは問題解決のためのビジネスを考え始めた。

実際に海岸で拾ったプラスチックカプセル肥料の殻(同校作成の資料より)

殻の正体であるプラスチックカプセル肥料は、肥料成分をプラスチックで覆っている。この肥料を水田に撒くと、中身の肥料は溶けて、プラスチックカプセルだけが残る。そして、残骸となり、水田から川を経由して、やがて海へと流れ着き“プラスチックごみ”として海洋環境の汚染に繋がってしまう。

なぜ大人たちは、これまでプラスチックの肥料への対策ができなかったのか。目黒さんによるとプラスチックカプセル肥料がとても便利なのが一番の理由だという。「この肥料を撒くと、60日後、100日後と決まった期間に、プラスチックに覆われた部分が水に溶けだし、中身の肥料を出してくれる。農家の方が何度も肥料を撒く手間がなくなるんです」(目黒さん)

プレゼンする目黒さん(右)と、河東田さん。大会不参加のメンバー・船山奈月美さん(2年)の写真を掲げて登壇

環境汚染防ぐ肥料を作りたい

環境面にも配慮した新たな肥料を開発して、廃棄物ゼロを目指していくビジネスプラン「#ZEROマイプラ」を考えた。着目したのは、主に野菜や園芸用に使われる「ウレアホルム(メチレンウレア)」という緩効性肥料(ある程度の期間効果が持続する肥料のこと)だ。

「水田でも活用できるのでは」と仮説を立て、肥料メーカーに協力をあおぎ、水田での実用化に向けての取り組みが始まった。

「(園芸用として)ウレアホルムは既に商品化されています。そのため、開発費用を抑えられ、販売価格も安くできるのもビジネスポイントです!」(河東田彩花さん・1年)

学校所有の水田で、肥料メーカーが新たに開発したウレアホルム肥料を使った稲の生育調査を実施。すると、従来のプラスチックカプセル肥料と遜色ない効果が見られ、「お米の味もおいしい!」好結果となった。「この肥料はプラスチックを使用していないため、海洋汚染を防ぐことができます!」

水田用のウレアホルム肥料の商品化が決まり、4月に販売される予定だ。

「第9回高校生ビジネスプラン・グランプリ」に登壇。制限時間6分のプレゼンの中で、自分たちが考えたビジネスの魅力を伝えた

ビジネスプランの大会で日本一に

高校生たちが考案したビジネスプランを競う「第9回高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)の最終審査会が1月、東京大学本郷キャンパスで開催された。ファイナリストとして登壇した10校が事業内容のプレゼンを行い、宮城県農業高校がグランプリに輝いた。

宮城県農業高校は全国353校3087件の応募の中からもっとも優秀なビジネスプランに与えられる「グランプリ」を受賞

商品開発から事業展開までのプロセスの完成度の高さ、脱プラスチックで海を守るという環境問題にも配慮した商品の考案も審査員たちから評価された。「#ZEROマイプラ」プロジェクトに携わってきた目黒さんは、「どうすれば魅力的なビジネスになるだろうと、メンバーたちと想像を膨らませることがすごく楽しかった。私たちの発表を通じて、多くの方々に水田用のウレアホルム肥料を広めることにも協力できてうれしい」と、喜びをあらわした。