高校3年間を通じてひときわ努力を重ねた生徒をたたえる第24回「高校生新聞社賞」を受賞した熊本・球磨工業高校カヌー部。全国大会で多くの好成績を残してきた強豪校だ。だが、新型コロナのまん延、豪雨による自然災害によって、思うような水上練習ができなくなってしまう。それでも災害ボランティアに励みながら、前を向く部員たち。幾多の困難を乗り越えて、2021年夏のインターハイに出場。部をけん引した3年生の元主将に当時を振り返ってもらった。(文・中田宗孝、写真・学校提供)
豪雨災害で被災、泥まみれのカヌー
2020年の「令和2年7月豪雨(熊本豪雨)」で、何艇ものカヌーやトレーニング機器を保管するカヌー部の艇庫(部室)が被災。コロナ禍による長期間の休部がようやく明け、新年度の練習が本格的に始まった直後の出来事だった。
主将を務めた嘉悦響也君(3年)は、「久しぶりにカヌーに乗って感覚を取り戻していたときだったんです。雨が激しく降り続き、川の水位はどんどん増して、本当に大変なことになると感じました」と、2年前を振り返る。
事実、2.5mも浸水した艇庫の被害は深刻な状況だった。出入り口のシャッターを突き破り、大量の水と泥が艇庫内に侵入。泥まみれになったカヌー、何艇かは屋外に流され、隣家の塀の上や民家の軒先に放り出され、「衝撃的な光景でした」(嘉悦君)
災害ボランティアに参加
2020年の秋口には、地域のラフティング協会と連携しての河川清掃など、カヌー部として災害ボランティアに参加。
甚大な被害を受けた地元神社の蓮池の清掃ボランティアは、2日間にわたり行った。「蓮池の中のゴミ拾いをしました。泥水の中での清掃作業で足をとられるような環境でしたが、僕らはカヌーで鍛えた足腰を活かせたんじゃないかなと思います」。
災害ボランティアに励む中で、感じることがあった。「地域方々にとって川や神社はシンボルです。その地の復興が進むことで『きっと地元が元気になる!』。そう願って部員一丸となって作業を頑張りました」
地形が変わりカヌーがこげない…
豪雨の影響で普段練習を行う川の水位が低くなり、従来のようにカヌーをこぐことが難しくなった。大量の土砂や大きな岩が川底に蓄積し、川の地形が変わってしまったためだ。加えてコロナ禍で、思うような練習のできない日々が続いた。
部員たちはランニングや体幹トレーニングといった陸での練習メニューをこなした。主将の嘉悦君は、「まずは大会の開催を信じて。部員たちには『こういった地道な練習が結果につながっていく』と声を掛けていました」と話す。陸の上での練習が多くなっても、一生懸命取り組む自分の姿をみせてチームを鼓舞していくのが、彼の実践したキャプテンシーだ。
近場の川からダムへと練習場所を変え、充実した水上練習ができるようになったのは、インターハイ直前の昨年7月。豪雨災害から1年がたっていた。
コロナ禍、災害乗り越えインターハイで入賞
昨年8月、嘉悦君らカヌー部はインターハイに進出。「自分たちの頑張っている姿を見せて、(豪雨で被災した)地元に元気を与えられたら。そんな思いも背負いながら競技に臨みました」。嘉悦君ら4人のメンバーで出場した「カナディアンフォア」では、2種目で見事入賞を果たした。
カヌー部の3年生部員たちは、新型コロナウイルスや熊本豪雨の影響で、主要大会が中止になったり、練習時間が少なかったりの3年間だった。だが、「コロナ禍、災害ボランティア……自分たちの代にしか経験できかったことも多かった」と、前を向く。
カヌー部員たちに「応援してるよ」「頑張って」と声を掛けてくれた地域の方々にいつも力をもらっていた。自然災害で活動ができない部の現状を知った地元企業の数社からは、カヌー艇の寄贈や寄付金の支援があった。「本当に感謝しかありません。僕らはカヌーを通じて、人とのつながりの大切さを学ぶことができました」