前編はコチラです。
■なぜ若者が参加するのか
高校生 ところで、なぜ若者がISを支持してシリアなどに行ってまで参加しようとするのですか。
酒井 スンニ派はイラクでは少数派ですが、イスラム教徒全体でいうと9割を占めるんです。だから、例えばエジプトにいるスンニ派のイスラム教徒が、イラク戦争でスンニ派が追いやられたと報道で知って、純粋な気持ちから「何とかしてあげなくちゃ」とISに加わるケースがあります。
さらにシリア内戦で、独裁政権が反政府勢力を弾圧しているという内容のニュースが流れると、反政府側がかわいそうだから応援しにいこうと考える人たちが出てくるわけですね。そうして応援に出ていった若者は、ISが反政府勢力を吸収していく過程で、結果的にISに巻き込まれてしまうわけです。
■「ボランティア感覚」で参加
高校生 英国などイスラム圏ではない国からISに加わる若者がいるのはなぜですか。
酒井 欧米は言論が自由だから、米国への批判も目にする機会がありますよね。そういう報道を見て反米意識を高めた若者が、何とかしなきゃと思ってISに参加することもあります。また、英国やフランスなどからISに加わった人たちのインタビューでは、「シリアの独裁政権が同じイスラム教徒にたいしてひどいことをしているのを止めたいと思って参加した」という意見が出てきます。
こうして「ボランティア感覚」で行ってから、他の宗派を殺すなどのISのひどい内実を知り、嫌になる人たちもいます。でもいったん入ってしまうと、ISを辞めたくても抜けさせてもらえないと言われています。
■日本でテロは起きるのか
高校生 ISが日本でテロを起こすことはありえますか?
酒井 ISのターゲットがまず米国とシーア派であるというのは、はっきりしています。
それ以外には、例えばフランス国籍のイスラム教徒の場合、宗教を理由に就職を拒否されるなどの差別を受けてきたことで、自国に恨みを持ってISに入った人がいます。差別を受けていなくても人生に挫折感を持った人が自国を出てISに入ることもあります。
でも、日本で嫌な思いをしてISに行ったという日本人もイスラム教徒もまだいません。だから、日本に直接恨みを抱くISの人はいないわけです。
■軍事以外で抑えるには
高校生 ISを軍事以外で何とかする方法はないんですか。
酒井 そこが一番難しいところですね。空爆をする側は、そこにいるのがISの戦闘員なのか住民なのかはわからない。賢い戦闘員だったら空爆の予想がついたら逃げますよね。逃げられない住民の方が被害は大きくなってしまう。そういう被害の報道が流れると、欧米にいるイスラム教徒が「やはり米国はひどい」と思ってISに参加するわけです。だから、空爆はだめだというのは明らかです。
ではどうすればいいか。何が原因でISができたのかを考えないといけない。イラクで無理やり政権交代をさせたことが原因だと踏まえると、時間はかかるけど、イラクでスンニ派の人たちも政権につけるような政治的メカニズムを考えないといけません。
また、欧米のイスラム教徒が、社会的に認められず苦しいからとISへ行ってしまうのを防ぐには、その国でまともな生活が送れるようにすることが必要です。
イスラム教徒が持っている米国や国際社会への不満に耳を傾けることも過激化を抑えることになるのではないかと思います。先進国でISによるテロがあると世界で大きく報道されます。一方で中東の国でもテロが日々起きていますが大きく報道されません。「命の価値」に差が出ているのです。日本で大きく報道されないことにも目を配ることは大切です。
高校生 外交の力で、状況を改善することはできないのでしょうか。
酒井 世界の国々の足並みがばらばらで、それぞれが自分たちの思惑で行動していることが問題です。アフガニスタン戦争やイラク戦争を経て米国の力が弱まり、ISはその間隙を縫っている状況です。国々の間で意見調整をし、どう共同行動をとっていくかをまとめられるような国際機関が必要でしょうね。