20235月に日本で開かれる先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に関連して、51314日に、長崎市で「G7長崎保健大臣会合」が開催され、新型コロナウイルス感染症からの「回復」をはじめ、国際社会が直面する保健分野の課題について議論される。この会議に参加する国際機関の一つ「世界銀行」の一員として準備にあたる徳田香子さんに、日本の10代に知っておいてほしい世界の課題を聞いた。

国際社会が直面する危機を話し合う

―G7長崎保健大臣会合では、新型コロナウイルス感染症からの「よりよい回復」を目指しています。保健分野では世界は今、どのような課題に直面しているのでしょうか。

現在、世界的な脅威としては「気候変動」「食糧危機」「ウクライナ危機」「新型コロナウイルスをはじめとする感染症」の4つが挙げられます。

徳田香子さん

気候変動を放置して温暖化が進めばデング熱やマラリアといった感染症が発生しやすくなる、新型コロナによって経済危機が起き、リソース(資源)が少なくなれば紛争が起きやすくなる、ウクライナ危機によって食糧・栄養危機が引き起こされるというように、これら4つの脅威は相互に絡み合っている難しさがあります。これらの脅威によって最初に影響を受けるのは、女性や高齢者、非正規雇用、貧困層の人々といった弱い立場の人々です。

―こうした複雑な課題に、世界はどのように立ち向かえばよいのでしょうか。

日本は、保健の課題は、保健のアプローチだけでは解決できないので、包括的なアプローチで解決しましょうと以前から提唱してきました。現在の国際社会が直面している危機をどのように乗り越えていくかを話し合うG7広島サミットとG7長崎保健大臣会合の議長国を日本が務めるのは幸運です。日本の先見性が注目される機会にもなるでしょう。

日本政府は「人間の安全保障」の考え方にのっとったグローバルヘルスを推進していくというビジョンを示しています。「人間の安全保障」は、日本が以前より国際社会に向けて提唱してきた概念で、人間一人ひとりに着目し、人々が政治的・社会的迫害や貧困、災害、病気、気候変動といったあらゆる恐怖や欠乏から免れて尊厳を持って生きられる世界をつくっていこうという考え方です。

難民の増加により、国を超える脅威に対しては、国家が自らの国民を守るという「国家の安全保障」の考え方だけでは対応できないとの認識が広まりました。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)によって、脅威は国境を越え相互に連関していることを痛感したことで、国際社会では改めて「人間の安全保障」の考え方とアプローチが注目されるのではと期待しています。

世界情勢に目を向け発信しよう

―日本でG7広島サミットとG7長崎保健大臣会合が開催されるのを機に、高校生にできることがあれば教えてください。

広島・長崎の地に刻まれている戦争の記憶は、高校生の皆さんにとっては遠い存在だったかもしれませんが、ウクライナ危機により「戦争」を身近にある恐怖として感じるようになった人も多いかと思います。SNSを通じて遠くの国の事情がリアルタイムで閲覧できる時代を生きる若い皆さんは、教科書で戦争を学んだ私たちの世代よりもむしろ強烈なインパクトを感じていると思います。かつて日本でも戦争で苦しんだ多くの人々がいて、生まれる時代や場所が違っていれば、その人々はあなた自身や家族、友達だったかもしれません。

そんなことを想像しながら今の世界情勢に目を向けた時に感じることがあれば、ぜひ自ら発信してみてください。今回のG7広島サミットとG7長崎保健大臣会合は、グローバルヘルス分野に限らず、私たちは何ができるかを考える良い機会になるはずです。

今は、SNSなどでの発信を通じて、指1本で世界を変えることもできる時代。高校生の皆さん自らが主役となって、どういう世界をつくっていきたいのかを私たち大人に教えてもらえたらと思います。(構成・安永美穂、写真・本人提供)

とくだ・きょうこ

世界銀行 保健・栄養・人口グローバルプラクティス グローバル・エンゲージメント担当業務担当官。外資系ソフトウェア企業での法人営業職、外務省(地球規模課題総括課)、国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所、国連ニューヨーク本部人間の安全保障ユニットなどを経て現職。恵泉女学園中学高校、慶応義塾大学総合政策学部卒業。イェール大学経営大学院客員研究員。東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障プログラム」修士・博士(国際貢献)。