新型コロナウイルスが流行してから約1年半。世界の子どもたちの生活にも影響は及んでいます。日本ユニセフ協会は4月、「新型コロナウイルスと子どもたち」をテーマにした報告会をオンライン上で開催。発展途上国で活動するユニセフの日本人職員が、現地の子どもたちが置かれている状況・子どもたちが受けている影響について伝えました。(文・高槻官汰、写真・ユニセフ提供)

教育・子どもの保護・水と衛生の3つの分野で、発展途上国の子どもたちがどのような状況に置かれているかが報告されました。

学校が閉鎖、通えない子どもが2400万人増

まず、教育の分野についてです。

アフリカ南部の国、モザンビークで活動する渋谷朋子さんは「新型コロナウイルスは世界中で、前代未聞の規模の教育の混乱をもたらしました」と説明しました。

昨年4月、現地では約1万4970校の学校が閉鎖し、850万人の児童・生徒に影響が出ました。これにより、学校に通っていない子どもたちの数が2400万人増加すると見込まれています。

休校により、マプトの自宅でテレビ番組を通じて勉強する姉妹(© UNICEF/UNI372409/Fauvrelle 、20年9月18日撮影)

この事実を踏まえて渋谷さんは「これまでになるべくたくさんの子に教育機会を与えようとしてきた努力が泡になってしまうレベルです」と現場の状況を報告しました。

児童労働や児童婚のリスク増

学校の閉鎖による影響は、学習の遅れだけではありません。子どもたちの生活面にも影響は及んでいます。

学校給食がないと、貧しい家庭の子どもは空腹に苦しみ、栄養状態も悪化してしまいます。子どもが、児童労働や児童婚をさせられるリスクも高まっています。

カボ・デルガド州のイボ島の学校で、ユニセフが支援する学用品を受け取る子どもたち(©UNICEF/UN0381248/Bisol 、20年12月3日撮影)

学校はただ勉強をする場所ではありません。

給食の提供や子どもが安全に暮らすための支援など、その役割は多岐にわたっています。新型コロナウイルスの影響で、学校はそうした役割を果たせなくなってしまったのです。

家庭内でのストレス高まり暴力、虐待も

次に、子どもの保護の分野についてです。

東南アジアの国、カンボジアで活動する吉川美帆さんは「今回のパンデミックによってカンボジア全国の約58%の中学・高校生が精神・心理的ストレスを感じているとの調査結果が出ています」と、新型コロナウイルスが子どもの精神面に与える影響に言及しました。

つまり、現地の中高生の2人に1人が精神・心理的ストレスを感じていることになります。

カンボジアでは観光業による収入が減少しており、国内経済にも新型コロナウイルスの影響が及んでいます。特に貧困層への影響は深刻なものです。

現地では、収入の激減、学校の閉校、移動の制限などが影響して家庭内でのストレスや不安が非常に高まっているという現状があります。その結果、子どもが家庭内での暴力や虐待を経験したり、目撃したりする事例が増加しています。

休校中、知的障がいのある生徒の家を訪ねる先生。生徒の学習状況や親の関わりを確認するため訪問している(© UNICEF/UNI358539/Cristofoletti、20年7月23日撮影)

子どもの性的搾取が増加

現地では、休校によって、子どもがインターネットを利用する機会も増えています。

「インターネットの利用によって子どもが遊びや学びの機会をより多く得ている一方、インターネット上でのいじめや性的搾取のリスクも高まっています」(吉川さん)

実際に2020年上半期、カンボジア国内での、子どもの性的な画像・動画に関する報告は前年と比較して約20%増加しています。

一連の状況を踏まえ、ユニセフ・カンボジア事務所では、全ての子どもが社会福祉サービスを継続的に受けられる環境づくりなどに取り組んでいます。

カンポット州の小学校に設置された手洗い場で距離を空けながら手を洗う子どもたち(© UNICEF/UNI395288/Raab、20年9月撮影)

「子どもの保護に関する影響は、目に見えないものが他の分野よりも多いと思います。しかし、影響を受けている子どもの数が非常に少ないとか、影響の度合いが低いとかいうわけではありません」(吉川さん)

トイレ後に半数が手を洗わない

北アフリカの国、スーダンで活動する頼田優女さんは「スーダンでは2019年もほぼ学校を閉鎖していました。クーデターが発生したためです。2020年になってようやく開けると思ったら、そこにコロナが来てしまいました」と、現地の深刻な状況を発信しました。

Um Rakoba難民キャンプでユニセフのスタッフから水を受け取る子ども(© UNICEF/UN0403167/Abdalkarim、20年11月24日撮影)

現在、ユニセフ・スーダン事務所では部族間紛争や洪水などに対する支援に加え、感染症対策の活動もしています。現地での感染症対策活動には、手洗いを含めた衛生習慣の啓発、グループで行う活動の定員制限が含まれています。

スーダン国民の衛生的な習慣の調査によれば、13%の家庭に手洗い設備があり、49%の国民がトイレの後に手を洗うとのことです。裏を返せば、国民の約半数はトイレの後に手を洗わないということになります。

Um Rakoba難民キャンプで水の容器の上に座って休む女の子(© UNICEF/UN0403172/Abdalkarim、20年11月24日撮影)

この現状を踏まえ、ユニセフでは学校に手洗い設備を設置する支援をしているとのことです。

不確かな情報を安易に拡散しないで

では、日本にいる私たちができることは何でしょうか。

アフリカで活動している岡村亜也子さんは「基本的な手洗いなどの感染症対策を継続して、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐこと、不確かな情報を安易に拡散しないことが、世界の人々を守ることにつながると思います」とメッセージを送りました。

また、レバノンで活動している杢尾雪絵さんは「新型コロナに関するニュースでは、感染のこと、経済のことが中心に報道されてしまい、子どもたちにどのような影響が起きているのかということは、なかなか皆さんの耳に届かないのではないでしょうか」と問いかけました。

子を救わないと世界の将来が危ない

その上で「今、子どもたちに手を差し伸べないと、世界の将来が危ないです。子どもたちがこれからも健康に、安全に暮らしていくために、一体となって、大変な状況の中でワクチン接種を進めている国への支援を皆さんにお願いしたいと思います」と訴えました。

新型コロナウイルス感染症は、他人ごとではありません。先進国でも大変な状況が続いていますが、発展途上国の子どもたちが置かれている状況は、深刻なものです。

世界が一体となって感染拡大を乗り越えていくことが今、求められています。