「世界を舞台に働いてみたい」とグローバルな仕事に憧れる10代もいるだろう。国連機関で働く国際公務員として活躍する日本人もいる。途上国に開発支援目的の融資や技術協力などを行う「世界銀行」に勤める徳田香子さんに、仕事内容を高校生記者たちが聞いた。

世界を舞台に働く国際公務員

―現在の仕事内容を教えてください。

米国ワシントンD.C.にある世界銀行の本部に勤めています。「保健・栄養・人口グローバルプラクティス グローバル・エンゲージメント担当業務担当官」として、主に4つの仕事を担当しています。1つ目は「気候変動や災害が、世界の人々の健康や暮らしにどのような影響を与えるか」を調査・分析する仕事です。

徳田香子さん

2つ目は、高齢化社会への対策を考えるための事例研究です。アジアやアフリカには日本よりも早いスピードで高齢化が進んでいる国も多く、「日本の高齢化対策の事例を生かしながら、各国に適した対策として何ができるか」を考える仕事をしています。

―5月に日本で開かれる先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の関連会議にも携わっているのですね。

そうですね。G7サミットに伴うG7長崎保健大臣会合(5月13・14日に長崎市で開催)の話し合いに役立つデータやそれに基づく保健全般の政策提言が3つ目の仕事になります。わかりやすく言うと、「国際会議でどういうメッセージを発信すれば中長期的に人々の健康や暮らしに役立つか」を考える仕事です。

そして4つ目は、UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の実現のために日本が拠出している「信託基金の管理」です。UHCとは、「全ての人が適切な保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を指します。日本は、UHCの実現に向けて主導的な役割を果たしていて、さまざまな国の保健プロジェクトや研究をサポートしてくださっています。それらの研究成果が世界各国で活用されるよう、研究内容の立案やプロジェクト管理をしています。

鉱山事業の影響を受けたリベリア過疎地の村民と企業との共生に向けた協議をする徳田さん(写真中央)

日本での常識は通じない

―国際公務員の仕事でやりがいを感じるのはどのようなことですか。

国際公務員は、世界全体がより良くなるための社会構造や道筋を作っていく仕事です。日本という枠を超えて、国際的な基準をつくったり、方向性を示したりして、世界に貢献できるやりがいがあります。

―世界のさまざまな人と働くうえで難しいなと感じることは?

日本の常識が通じない場面も少なくありません。紛争国を訪れた際は、時計や文字を読むことができない現地のドライバーの方と仕事をしました。道なき道を毎日十時間程運転してくださる卓越した能力の方でした。その方には「何時何分に来てください」と言っても理解してもらえないため、「おなかがすいたら来てください」など、その方に伝わる言い方を工夫しました。

日本の常識に縛られず、相手を見て対応をする必要があるので、全てが学びになる仕事だと思います。

緒方貞子さんに憧れて

―この仕事を目指すようになったのはなぜですか。

中学生の頃、緒方貞子さんが日本人初の国連難民高等弁務官として活躍されている姿をニュースで見て、「小柄な日本人女性でも世界の役に立つ仕事ができるんだ」と憧れました。ただ、日本で生まれ育った私には遠い存在でもありました。通っていた中高一貫校では、平和や国際的な問題について学ぶ機会が多く、紛争や貧困といった問題にも関心を持つようにもなりました。

高校1年の時に兄が病気になって大きな手術を受けたことも、現在の仕事を目指すきっかけになりました。兄はたまたま日本に生まれたので手厚い治療を受けることができましたが、「医療体制が整っていない途上国に生まれていたり、治療費が払えなかったりしたら、助からなかったかもしれない」と恐ろしくなったのです。

どこに生まれたとしても、人々がそういう悲しい思いをせずに安心して暮らせる世界をつくりたい。そのためには「国際機関で働けたらいいな」と考えるようになったのです。

コロンビアの山岳地で元FARC戦闘員たちと相互補完的なプロジェクト発足に向けた意見交換

―国際公務員として必要とされる人材はどんな人でしょう。

国際機関では、広く浅い知識を持つジェネラリストよりも、一つの分野を極めているスペシャリストが必要とされる傾向があります。現在の職場でも保健衛生について私よりも専門的な知識を持っている人が大勢いますが、「その人たちが得意ではないことで、自分が得意なことは何だろう」ということを常に考えるようにしています。

専門知識に関しては医師や科学者にはかなわなくても、そのような専門家同士や専門家と政策立案者の橋渡しをすることが私は得意。そう気づいたことで、今は自信を持って働くことができています。その力を身に付けられたのは、大学卒業後に5年間、営業の仕事をしたのが大きかったです。

この記事を読んでいる高校生の皆さんも、人と違う自分の得意を発見すれば、きっと活躍できるチャンスがありますよ。(構成・安永美穂、写真・本人提供)

「後編」では、徳田さんが国際公務員になるまでの歩みを語ってもらいました。

とくだ・きょうこ

世界銀行 保健・栄養・人口グローバルプラクティス グローバル・エンゲージメント担当業務担当官。外資系ソフトウェア企業での法人営業職、外務省(地球規模課題総括課)、国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所、国連ニューヨーク本部人間の安全保障ユニットなどを経て現職。恵泉女学園中学高校、慶応義塾大学総合政策学部卒業。イェール大学経営大学院客員研究員。東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障プログラム」修士・博士(国際貢献)。