新型コロナウイルスの感染予防対策として、窓を開けてこまめに換気することを国は推奨しています。だが、空気の流れは目に見えない。果たして本当に換気されているのだろうか……そんな疑問から、堺大耀君(N高校2年)は自ら実験装置を作り研究。室内の換気に必要な時間を計測しました。研究成果は中高生を対象にした科学のコンクール「第64回日本学生科学賞」(読売新聞社主催)で1等入選。彼の姿から、疑問を自ら解決しようとする力の大切さが見えてきました。(中田宗孝、写真は学校提供)

窓開け換気に疑問「本当にできてる?」

―研究を始めたきっかけは何ですか?

中2からプログラミング教室に通っているんです。プログラミングの先生からの勧めもあり、昨年7月ごろから「換気」をテーマにした研究に取り掛かりました。 

「窓の開放による換気の効果」の研究で「第64回日本学生科学賞」1等に入選した堺君

―なぜ「換気」に着目したのでしょうか?

新型コロナウイルスの感染の予防対策として、「ソーシャルディスタンス」や「三密(密閉・密集・密接)」が頻繁に言われ始めた時期でした。

昨年6月にコロナ休校が開け、学校の教室でも「密閉」を避けるために窓を開ける時間を設けて換気を行っていたんです。でも僕は、換気による気温の変化を全然感じなくて「ちょっとおかしいな」と。

(初夏の当時は)冷房の効いた教室だったので、窓を開けて外気が入ってくれば多少は暑くなるはず。だけど僕の席のまわりは暑くならない。

「本当に換気ができているのだろうか?」と、疑問を持ったことがきっかけとなり「窓の開放による換気の効果」を研究のテーマに選びました。

ネットで調べ実験装置を手作り

―どのように換気の研究を進めていったのですか。

まずは室内の換気量を計測するための「熱式風速計」の製作です。インターネットなどで作り方を調べながら自作しました。

マイコンボードに設置した温度センサーをヒーターで加熱し、風によって奪われる熱をもとに風速を計る機器なのですが、そのマイコンボードに換気量を計測する設定をプログラミングしています。

完成までに約1カ月かかりましたが、既製の機器を使わず自分で製作したほうが研究テーマへの理解も早いだろうと思ったんです。何より、製作が楽しそうだったというのもあります。

プログラミングの知識を生かし、換気量を計る「熱式風速計」を製作

―熱式風速計を部屋の窓に設置すると、室内の換気にかかる時間のデータが得られるのですね。

はい。僕は、室内の換気量を調べて換気ができている状態とする基準をつくって実験に臨みました。

それは、部屋の体積の総量が窓を出入りする空気の体積と一致すれば、室内の体積ぶんの空気が外に出た。つまり空気がすべて入れ替わり「部屋の換気ができた」と仮定しています。

風の強さが換気のスピードに影響

―換気量を計測した研究環境を教えてください。

プログラミングの指導を受けている先生にスペースをお借りして、換気の研究・実験を週2~3回のペースで行っていました。

換気量を測った1階の室内は8畳(34.3㎥)、2つの窓がある環境です。今回の実験では、2つある窓の1つに「熱式風速計」を設置し、2つの窓を両方とも開けた場合の部屋の換気にかかる時間を計測しました。

窓を出入りする空気の体積が8畳の部屋全体の体積34.3㎥に達すると「換気ができている」としています。

研究中の様子。窓の中心に自作の「熱式風速計」を設置し、室内が何秒で換気できるかの数値をパソコンに取得した

―この実験でどのような結果となりましたか。

下記の気象条件のもとで換気にかかる時間を計測しました。

  • 条件1
  • ・14~15時ごろ、2つの窓を同時に開けて
  • ・天気:雨 温度:16℃ 湿度:87% 
  • ・風向き:北東 風速:3m/s 
  • 条件2
  • ・14~15時ごろ、2つの窓を同時に開けて
  • ・天気:くもり 温度:20℃ 湿度:47% 
  • ・風向き:東北東 風速:1m/s

実験の結果、1の場合は換気にかかった時間は66~91秒、2では167~175秒と、1の条件のときよりも換気にかかる時間が2.4~2.6倍違ったんです。

1、2の風速は3倍違いました。このことから、部屋の換気には風が影響していると考えました。

窓を開けて部屋の換気をするなら、その日の風速や風の向きをチェックして、換気をする時間の長さを変える必要があるのです。

また、網戸のある・なしでも実験したところ、窓に付く網戸を開けて換気をした方が、窓を開け網戸を閉めたままのときよりも約2倍早く空気が入れ替わったんです。この結果には僕も驚きました。 

実験で窓開け換気の効果を実証

―今回の研究成果で得られる期待はありますか。

首相官邸のホームページに掲載するコロナ感染予防対策のガイドラインには、密閉を避けるために「窓やドアを開けてこまめに換気を!」とありました。ですが、室内を換気された状態にするには数分間程度とあり、それ以上の詳しい説明がなかったんです。

僕の研究では、部屋の換気にかかる時間を数値化しているので、この数値を見れば部屋が換気されている状態であると明確に分かります。そのことで「部屋が換気できている」という安心感が生まれ、気持ちも全然違ってくると思います。

僕自身、部屋の換気をするときは窓だけでなく網戸も開けるようになりました。

―研究中に苦労したエピソードを教えてください。

研究の初期がもっとも苦労しました。

「換気って何だろう?」ということから考えを深めて。部屋の空気が全部入れ替わると換気できている状態だと分かるのですが、部屋の空気が全部入れ替わったとどう感じるのか、機器で計れるものなのか、と。

体感温度の差で換気ができている状態だと分かると思うのですが、機器を使って体感温度を計測するのは研究環境的に難しく……。

―研究の行き詰まりをどう乗り越えたのでしょうか。

プログラミングの先生と話し合いながら、研究に取り組んでいたんです。

ホワイトボードに「換気」から思いつく研究アイデアを書いたり、部屋の間取りの絵を描いたりと2人でブレインストーミング(複数人でアイデアを出し合うことで新たな発想を誘発させる思考の技法)していったんです。

議論を重ねていくことで換気の研究の方向性が見えてきて、最終的には、部屋の体積と窓を出入りした空気の体積が一致することで換気ができたとする仮定にたどり着くことができました。ブレストってすごい!

身近な疑問を解決する楽しさに気付いた

―研究内容が評価され「日本学生科学賞」で1等入選を果たしました。

率直な気持ちは驚きでした。コロナ禍の今、「換気を数値化する」という視点で取り組んだ研究テーマのタイムリー性が受賞につながったと感じています。

研究レポートの書き方の助言をくれていた父親は「本当によく頑張った」ってすごく喜んでくれて、祖母からも「おめでとう」のメッセージが届いてうれしかったです。

―今回の研究を通じて身についた力はありますか?

「換気をしよう」という抽象的な表現を、自作の機器で数値として明確化できました。身近な疑問を自分で解決する力がついたと思います。

そして、疑問を解決していくことがすごく楽しいんだと気がつきました。これからも新たなテーマを見つけて、研究を続けていきたいです。

―今後はどんな研究を考えているのでしょうか。

「カーボンニュートラル(脱炭素社会)」に注目していて、それに関する面白い研究テーマがないか模索中です。

習っているプログラミングもすごく面白いので、その知識を生かして機器を製作し、身近な疑問や物事を解決に導くような研究をしてみたいですね。