ダンゴムシの研究で数々の成果を挙げている片岡柾人君(島根・出雲高校3年、今春卒業)。小1からこの研究を始め、なんと高3にして研究歴は12年目を迎えます。片岡君の研究は、「高校生科学技術チャレンジ(JSEC)」(朝日新聞社・テレビ朝日主催)で最高の賞にあたる文部科学大臣賞の受賞をはじめ高い評価を得ています。そんな片岡君に、ダンゴムシに惹かれる理由や、研究に向き合う姿勢などを語ってもらいました。(中田宗孝、写真は本人提供)

ダンゴムシはかわいい

―ダンゴムシのフンの中に、「カビの繁殖を抑える細菌がある」ことを突きとめましたね。研究を始めたきっかけは?

自宅の家庭菜園にダンゴムシやワラジムシがたくさんいて、単純に「かわいいな」と興味を持ったんです。小1から夏休みの自由研究として、ダンゴムシの行動観察やワラジムシとの比較といった研究を始めました。

飼育しているダンゴムシ

―幼い時から研究をしていたんですね!

あるとき、ダンゴムシを飼っていたケースの中が他の虫と比べてカビが発生しにくいことに気がついたんです。それが今まで続く「ダンゴムシの抗カビ効果」の研究に繋がっていきます。

ダンゴムシのフンに含まれる細菌の遺伝子を調べる実験を行う片岡君

この気づきが、ダンゴムシに興味をなくすことなく研究を続けてこれた大きなきっかけになりました。自分の考察に基づいて実験した結果、うまくいけばうれしい。これまで知らかなったことが分かるようになる。分からなかったことが明らかになると新たな疑問が生まれる……その繰り返しでダンゴムシの研究は12年目になります。

土と葉っぱで育てる

―どのようにダンゴムシの飼育を行っているのですか。

自宅や学校周辺で取ってきたダンゴムシは、飼育ケースに土と葉っぱを入れて、時折、霧吹きをかけてあげます。

―結構大変そうですね。

いえいえ、ダンゴムシの飼育自体はそれほど難しくはありません。小中学生のころは自宅で飼っていました。ですが、高校生になってからは校内の生物室内に飼育スペースを作ってもらって、そこで30~40匹飼っていました。

土と葉でダンゴムシを育てる

ダンゴムシのフンの中に含まれる細菌について調べているので、フンから研究に必要な細菌を取ってしまえば、ダンゴムシの数は実はあまり必要ないんです。

―高校時代、研究はどこで取り組んでいましたか。

自然科学部に所属していたので、校内の生物室が主な研究場所でした。

クリーンベンチ(無菌操作のための装置)やオートクレーブ(高温・高圧の水蒸気で滅菌処理を行う)などを使ってダンゴムシの研究を続けた

放課後から19時まで生物室で実験し、帰宅後はその日の実験結果のデータをまとめたり論文を書いたり。平日は1日5~6時間、休日になると半日以上は研究の時間にあてていました。

大学教授にアドバイスをもらって

―思うような研究成果が得られないときはどう乗り越えましたか?

研究中に自分の考察に行きづまり、埒が明かないときは島根大学の教授にアドバイスをもらっていました。高2のとき同大学の研究室に通ってダンゴムシの研究を進めていたんです。

より専門的な実験機器を使い、校内の設備では技術的に追いつかなかった実験ができるようになりました。実験をするうえで「うちの研究室ではこうしているよ」と、細かい工夫を教えていただき、それを現場で自分の目で見て、すぐに実践できるというのはとても大きなことでした。

―1人で研究を続ける中で寂しくなる瞬間はありませんでしたか。

そう感じたことはありませんよ!

僕は、いくつかの(科学技術系の)大会に参加して他県・他校の高校生研究者とたくさん出会いました。友人となった彼らは、化学、植物科学、情報工学といったさまざまな分野で研究に励んでいます。僕の研究分野とは異なりますが、日々研究を頑張っている同世代の研究者の存在はとても刺激になるんです。

ダンゴムシの模型を持った片岡君。「高校生科学技術チャレンジ(JSEC)」にて

研究者仲間たちと知識や情報の交換をしたり、僕の住む地域にはない、ダンゴムシの研究に必要なサンプルの入手を頼んだりしたこともあります。

医薬品に利用できるかも?

―この研究成果の展望や期待について教えてください。

ダンゴムシのフンに含まれていた「抗カビ物質を生産する細菌」が、ダンゴムシとどのような関係をもって生活しているのか、関心があります。

ダンゴムシの腸内に常在する細菌の可能性もありますし、偶然ダンゴムシの体内に入った細菌ということもありえます。ダンゴムシと抗カビ物質を生産する細菌の共生関係は、まだ突きとめていないので、今後の僕の研究課題となっていきます。

―私たちの生活に利用する…なんてことも可能でしょうか?

そうですね。抗カビ物質を生産する細菌を、僕らの普段の生活に利用できないかと考えているんです。この細菌のもつ抗カビ効果を、生活用品や医薬品などに有効利用できるかも知れません。

正直に、誠実であれ

―研究者として大切している信念はありますか。

研究に対して正直に、誠実であるべきだと考えています。

島根大学の教授が伝えてくださった「研究は1人ではできないもの」という言葉を思い浮かべます。これまで僕の活動を支えてくれた方々や、実験機器があってこそ研究を進めることができる。

そして、先人の科学者たちの努力の積み重ねによって、研究者としての今の自分があるということを常に思うようにしています。

―最後に、将来の夢や進路について教えてください。

将来の夢は生物学の研究者です。

研究は、自分が面白いと感じる気持ちがないと長く続けられない側面があります。僕にとって興味の尽きない分野が生物学。まずは理系大学に進学した後、大学院へと進み、生物学の研究者を目指していければと思っています。

【片岡君にQ&A】ピアノも弾けます

Q.ダンゴムシの研究で身についた力は?

A.探究心

分からないことを分からないまま終わらせてしまうと、僕はとてもモヤモヤします。疑問は解決しないと気が済まない。これまでの研究を通じて、そんな力が身についたと思います。

Q.尊敬している人はいますか?

A.ダンゴムシの研究で出会ったすべての人

同世代の研究者仲間たち、研究のサポートをしていただいた先生方には尊敬の念を抱いています。そして、僕のダンゴムシの研究のベースとなる知見を築きあげてきた、先人の科学者たちには常に敬意を払っています。

Q.趣味はありますか?

A.ピアノを弾くこと

3歳から今も続けているピアノです。よく弾くのはクラシック。近代音楽(19世紀末~20世紀初頭)の作曲家の曲が好みです。

Q.休日の過ごし方は?

A.プラモデル作り

研究や勉強がないときは、寝て過ごしたりYou Tubeをみたりしています。時々、飛行機(戦闘機)のプラモデルを作ることもあります。