全国でも珍しい「高校水族館」を持つ桶川西高校(埼玉)。管理、運営を担当している科学部は、魚の世話だけでなく、魚に関係する地域のイベントやボランティア活動にも熱心に取り組み、たくさんの人を笑顔にしている。(文・写真 青木美帆)

水族館の名称は「ハートフル桶西水族館」。2003年に開園した。飼育している魚は40種500匹以上。40個の水槽が生物室をぐるりと取り囲むように設置されている。ラメをまいたようにキラキラ光るピラニアやメタリックブルーのウロコが特徴の通称「アーリー」、成長すると全長180㌢にもなる巨大なネオケラトドゥスなど、個性豊かな魚たちが来館者を出迎える。魚は全て、部を指導する小熊一雄先生が長年かけて集めたものだ。

昼食10分、生物室に

 

5人の科学部員が毎日昼休みと放課後に世話をする。餌やりや水槽の掃除など仕事は多く、昼食は10分で完食して生物室に向かうのが日課だ。

入場料は無料。幼稚園児からお年寄りまで年間2500人の来館者に魚の解説をするのも大事な仕事だ。取材時も、前部長の原田唯奈さん(3年)が水槽内のピラニアについて「怖い魚だと思われがちですが、実は臆病で人が近づくと逃げてしまうんです」と、来館者に解説していた。訪れた人々は、部員たちが日々の活動で手に入れた生の知識を聞き、驚きや感心の声を挙げながら熱心に見学していた。

人と接するのが得意になった

 

出前水族館やサケの放流など、地域のイベントに参加することも多い。OBが勤めるグループホームを訪れ、魚を主人公にしたオリジナルの紙芝居を認知症のお年寄りに披露することもある。

実に幅広い年代と接する部だが、入部前は人とコミュニケーションを取るのが苦手だった部員がほとんどだった。「高校に入る前は人と関わるのが苦手だったけど、この部活で変われた」と加藤美冬さん(3年)。新部長の甘利大雄君(2年)も「来館者に喜んでもらえるように、自分も変わらなきゃいけない」とはにかむ。

水族館で手にしたホスピタリティーの心を生かし、卒業後は福祉関係に進む生徒も多いそうだ。

部活データ:

水族館は2003年に開園。部員5人(2年生3人、1年生2人)。これまでの活動が評価され、13年に「第7回SYDボランティア奨励賞」で最優秀賞にあたる文部科学大臣賞を受賞。