ライトノベルが大好きな高校生記者・鈴木とこー君はこれまでに200冊以上のラノベを読んでいます。そんな彼がおすすめするラノベ『カノジョに浮気されていた俺が、小悪魔な後輩に懐かれています』を紹介してもらいました。

重たくリアルな大学生の恋模様

カノジョに浮気されていた俺が、小悪魔な後輩に懐かれています』/御宮ゆう著 えーるイラスト(角川スニーカー文庫、640円=価格は1巻、税抜)

「現実は小説より奇なり」であるのならば、きっと小説は現実よりもリアルなのでしょう。今回ご紹介するライトノベルは、息を呑むほどの空想的なリアリティに引き込まれる、恋愛の話です。

『カノジョに浮気されていた俺が、小悪魔な後輩に懐かれています』御宮ゆう著 えーるイラスト(角川スニーカー文庫、640円=価格は1巻、税抜)

タイトルから分かるように、物語は主人公が恋人に浮気され、傷心であるところから始まります。主人公が高校生であったのならば、おそらくこの物語は少し違う雰囲気になっていたでしょう。

しかしながら、この作品の主人公やメインとなる登場人物は皆大学生であり、だからこそ異様なまでの生々しい雰囲気が漂っているのです。

「生きている」と確信できるほど引きこまれる

クリスマス間近。主人公は、サンタのコスプレを着てバイトをしている少女と出会います。彼女こそタイトルで言うところの、「小悪魔な後輩」です。そんな彼女との関係の変化を軸に、主人公の周りにいる女友達や元カノとの鈍く重い恋物語が繰り広げられていきます。

この作品の卓越しているところは、まさにリアリティであるように思います。もちろん、作中で起きているような出来事は現実にも起きるかと言えば、それは分かりません。まして私はまだ高校生であり、大学生の実態を知るわけでもないのです。

しかしながら、それでもありありと感じてしまうリアリティがこの作品に詰まっています。

「作品の世界」などという表現は、些か手垢がつきすぎている言葉であるように思います。けれども登場人物は過剰な個性の主張がないにも関わらず個性や個人を感じ、そして「生きている」と確信すらできます。登場人物の距離の変容はあまりにも自然であり、違和感を抱く余地すらありません。この感覚は「全てに説得力がある」といった技量的な説明では足りず、まさに「物語に引き込まれる」と言うべきであるように思います。

これまで見えていなかった「何か」が見えてくる

そうしたリアルな世界で繰り広げられる、恋や人間関係の物語もまた、必見です。たとえば「どこからが浮気?」という問い。これは、ある意味では難しく、一方では簡単であり、だからこそ読む価値があると思います。

この本を読んで、考え方が変わるのかは分かりません。読んだ瞬間に世界観が変わる、というような強烈なメッセージ性のある作品だとは私は感じませんでした。ですが、たとえば読んでから暫く経った、ふとした日常で、この作品に仕込まれた「毒」とすら思えるような、ほんの一要素がこれまで見えなかった何かを見せてくれるような気がします。

高校生という活力に満ちた「青春」を生きる皆さまにこそ読んでいただきたい物語です。物語にとっぷりと浸かりたい気分になりましたら、ぜひお読みください。(高校生記者・鈴木とこー=2年)