昆虫になった高校生が、机で勉強をしている……!

「細流に揺蕩う」(第44回全国高等学校総合文化祭 2020こうち総文 美術・工芸部門出展)

まるで、SF映画の一コマを見ているよう。見る人に強烈なインパクトを与えるこの作品は、中山響輝(ひびき)君・貝原杏実(あみ)さん(兵庫・小野高校2年)が生み出しました。

昨年、文化部の全国大会の一つである全国高校総合文化祭(今回はWEB開催)の美術・工芸部門に出展。2人にどうやって制作したのかを聞きました。

劣等感、怒り…揺れる感情を表現

―昆虫になった高校生……衝撃的です。

この作品は「感情の揺れ」を表現しています。

そのモチーフとして、あえて感情がなく、無表情である昆虫を選びました。昆虫を擬人化させることで、かえってさまざまな感情や表情を想像できるのではないかと考えたからです。

―作品名の「細流に揺蕩う」には、どんな思いが込められているのでしょうか?

総合文化祭に出品するにあたって、どんなものをつくろうかと悩みに悩んだ結果、初めて大きな立体作品に挑戦しました。

(1年生)当時、高校という新しい環境で、周りがとても優秀に見えていました。自分自身への劣等感から立ち位置が掴めず、些細なことにも立ち止まって悩んでいた時期がありました。

そこで、自分自身の右往左往ぶりに若干怒りに近い感情をもって、立体作品にしてやろうと考えるようになりました。

―細流とは?

私が通っている学校を意味します。

長い目で見ると「些細なこと」の寄せ集めである「高校」は通過点に過ぎないのに、私の感情は大きく揺れ、右往左往している。つまり、「揺蕩」しているのです。そんな私の感情をテーマにしました。

とにかく昆虫をリアルに

―カブトムシ、カマキリなど、虫の顔が複数あるのが印象的です。

右往左往している間にさまざまな感情が発生して然るべきなので、それを比喩的に表現するために顔を3つにしました。

人間の体を与え、学生服でポーズをつけることで、さらに高校生として感情移入しやすいようにしてみました。

虫の顔をとてもリアルに表現している

―どうやって作ったのですか?

油粘土でつくった立体に、石こうをかけて型をつくり、そこにFRP樹脂を流し込んで成型しました。ですが、大きすぎて粘土成型の段階で崩れたり、型を抜くときに石こうが割れたりするなど、かなり大変でした。

また、FRP樹脂を、昆虫の目は磨いてツヤを出したり、制服のしわや昆虫の頭のゴツゴツした感じを意識して加工し、質感の表現に苦労しました。制作期間は約3か月かかりました。

―制作途中で印象に残っているエピソードを教えてください。

誰よりも昆虫が好きな自信があったので、造形についてはとにかくリアルを目指しました。探しても見つからなかったカマキリが、秋になって気温が下がり、探すのを諦めかけていた時に、ふと近くの草むらにいて、びっくり。

共同制作をすると、二人の意見がぶつかって苦労したこともありましたが、思ってなかったような効果が出ることもあって、とても刺激的でした。

―よい作品を作るためのコツは?

とにかく人の作品を観て刺激を受けたら、今までにないものがつくれるようになるかもしれないと思っています。また、好きな物事を表現するために、その表現方法を追及していけば、良い表現につながっていくと思います。