増田潤さん(長野・松本深志高校3年)の油絵「老眼と下顎の伸びの比例関係について」を紹介します。「老眼」によって眼鏡をずらしながらスマホを見つめる両親を描いたこの作品は、全国高校総合文化祭(清流の国ぎふ総文2024)の美術・工芸部門に出品されました。どのように制作したのか聞きました。(写真・学校提供)

老眼と下顎の伸びの比例関係について(第48回全国高等学校総合文化祭 清流の国ぎふ総文2024 美術・工芸部門出品)

「眼鏡を上げないと見えないっ」老眼嘆く両親を絵に

― 作品のテーマを教えてください。

タイトルでも触れているように「老眼の人が物を見るときの表情」です。両親は最近、老眼により「近くのものを見るときに、眼鏡を上げないと見えないっ」と嘆いています。ある日、僕はその場面を目の当たりにしたのですが、なんと、眼鏡を上げると同時に顎が出ているではありませんか。しかも両親そろって。そのシンクロした表情が非常におかしかったので、絵にしました。

両親に協力してもらって、いくつかの再現写真を撮りました。写真をそのまま写しては絵の意味がないので、絵にしか出せない味を意識して完成させました。ちなみに両親が見ているものは、僕の成績です。

見た人が楽しめる作品にしたい

―こだわったり工夫したりしたポイントはどこですか?

僕はいつも絵を描く際に、なるべく「見た人が楽しめるようにしよう」と考えています。今回も、多くの人が共感するような場面を切り取ってみました。

先にも触れましたが、写真をそのまま絵にしては、相当うまくない限り意味がないと考えています。絵にしか出せない顔の筋肉の感じや雰囲気を意識しました。さらに「見る人にインパクトを与える構図であること」も意識しました。

絵を抱え道を歩くと「すれ違う人が凝視…」

―難しかった点、苦労した点はありますか?

インパクトのために顔を大写しにした構図にしたのですが、細部まで描き込まないといけなくなってしまい、手間がかかりました。今回の絵は910×1167mmと、自分が描いてきた中でも一番大きな絵だったので、細部を意識し過ぎて全体の印象が崩れないようにすることも意識しました。

―制作中、印象に残っているエピソードはありますか?

僕は学校と家の両方でこの絵を描いたのですが、移動の際に作品を担いで道路を歩くことが何度かありました。幸い家と学校の距離は短いので労力的には問題ないのですが、この絵をでかでかと掲げながら歩くことになってしまいました。すれ違う人や友達がこの絵を凝視していくのを見て少し恥ずかしい反面、「人の目を集める絵になったかな?」と少し自信がつきました。

普段から物を観察することを意識

―よい作品を作るためのコツを教えてください。

絵の練習というより、物を観察することを普段から心がけています。物をよく観察し、それを絵にするときの構図、そしてその絵が絵として面白いかにいつも気を配っています。「面白い」は「興味深い」という意味の面白さです。