植田涼香さん(茨城・太田第一高校3年)の姉は、身体に障がいをもっている。障がい者の妹として生活をする中で感じてきた、周りの好奇の目や、社会のあちこちに存在する障がい者への見えない壁……。「障がい者も一人の人間なんです」と主張する彼女の声を届ける。(中田宗孝)

姉は憧れの存在、なのに…

植田さんには、身体に障がいをもつ3歳上の姉がいる。彼女にとって姉は、小学生のときの自己紹介カードに「将来はお姉ちゃんみたいになりたい」と書くほど、いつも憧れの対象だ。

植田さん(右)と姉

「涼香ちゃんの夢、恥ずかしくないの? お姉ちゃん、障がい者でしょ。隠さなくていいの?」

友だちからと言われ、大きなショックを受けた。

「私の姉は恥ずかしいの?」

自分がよく知る姉と、第三者から見える姉は何が違うのか。そんなモヤモヤを植田さんは抱えていくことになる。

好奇の視線にさらされて

やがて、姉が周囲から好奇の目で見られているのを痛感する出来事に、植田さんは何度も遭遇した。

「姉と一緒に外食すると、店員さんやお客さんからの『おっ』という好奇の視線を感じます。姉を露骨にのぞき込んで嫌な顔をする人も……。姉と街を歩いていると、小さな子どもが姉を見て『お母さん、あの人、小さいよ』って、無邪気に伝える声も私たちの耳に届きました」

障がい者というフィルターを通してでしか姉を見ない人たち。「でもそれが私たち家族にとっても日常の光景になってしまったんです」

妹のために気丈にふるまう姉

偏見を目の当たりにしたとき、植田さんの姉は気丈にふるまうという。

「私の前では『仕方ないよね』『気にしてないよ』と言うのですが、両親には『悔しい』と漏らし、傷ついていたのを知っています。自分よりも妹の私が悲しい思いをしないように気遣ってくれる。そんな相手の気持ちに寄り添える姉を私は誇りに思う」

植田姉妹にはこんなこともあった。背中にボルトを埋める大手術を控えていた姉だったが、妹の植田さんの前ではつとめて明るかったという。

「『親が私につきっきりで涼香を淋しい気持ちにさせちゃってごめんね。退院したらたくさん遊ぼうね』と、逆に私を元気づけてくれたんです。後から両親に『手術が怖い』と、姉が号泣していたと聞かされて。私の前ではどんなときでもお姉ちゃんでいてくれるんだなって」

「ガイジ」とばかにしないで

植田さんにとって、姉はずっと尊敬や憧れを抱く存在だ。「姉のようになりたい」と、将来の夢を語った小学生のころから今も変わらずそう思っている。

「障がいをもっているからといって過敏に反応しないで」

植田さんは、誰もが住みよい社会にするために声を発し続けている。昨年は、全国大会にあたる「全国高校総合文化祭(2020こうち総文、WEB開催)」の「弁論」部門に出場。

「障がいをからかわないでほしい。『ガイジ』とばかにしないでほしい」。差別意識の残る社会に向けて、多くの人が声をあげることも強く望んでいる。

弁論大会で舞台にたつ植田さん

現在、植田さんの姉は大学生活を謳歌しているという。「今は家を離れて暮らしていますが、姉が帰ってきたときには24時間ずっと私と過ごしてくれます」

時折、姉妹げんかもあるそうだが、「大体私の方が悪い(笑)。姉の機嫌が直るようなモノを買って『ごめんね』って仲直りするんです」。どこにでもいる、仲良し姉妹のほっこりとしたエピソードだ。