「私学の雄」として、何かと比較されがちな早稲田大学と慶應義塾大学。実際のところ、どのような違いがあるのだろうか。20年以上にわたって大学生の「ナマの声」の取材を続け、『大学図鑑!』の監修を務めるオバタカズユキさんに、早慶の就職状況の実情を聞いた。(安永美穂、協力・ダイヤモンド社)

就職は慶應が一歩リード、強力すぎる三田会

―就職状況の違いは?

就職に関しては、全般的に慶應の方が強いといわれ、企業の評価も高い。

人気が高い総合商社への就職においても、慶應が大きくリードしている。ある企業の人事担当者は「慶應生はハズレが少なく、5段階評価で確実に4は取れる人材がそろっている。それに対して早大生は当たりハズレが大きく、ずば抜けて優れた人もいる一方で、全く使えない人もいる」と言っていたが、これは多くの企業に共通する見方だろう。

―慶應が就職に強い理由は?

慶應のOB・OGが形成する「三田会」は産業界と大学をつなぐ強力なパイプとなっていて、ブランド企業に勤めている卒業生たちが後輩の就職をバックアップする体制がある。社名に「三井」や「三菱」が入っているような旧財閥系の伝統企業には三田会が幅を利かせやすいこともあり、毎年、多くの学生が就職している。

SFC(湘南藤沢キャンパス)出身者は企業から「ヘンに自立心が強くて、使いづらい」という見方をされることもあるが、ベンチャーや社会起業家の分野では大きな存在感を示している。

就職に躍起になるのは…のんびり構える早稲田

―早稲田の学生の就職に対する意識は?

慶應では、3年次ごろから就職を見据えてOB・OGとの人脈づくりにいそしむ学生が多いのに対し、「就職にそんなに躍起になってどうするの?」という雰囲気があるのが早稲田。慶應に比べると、就職に対してのんびり構えている学生が多い。

とはいえ、OB・OGの数も多くネットワークがあるので、希望する業界の先輩を頼って情報を得ることは可能。3浪以上、マスコミなどの難関狙い、人格的に難ありといったケース以外なら、就職ではまずあぶれることはない。ただ、就職実績の学部による差は多少あり、政治経済、法、商、理工3学部あたりの実学系の学部が強いといわれている。

「大学時代に何をしたか」が大事

―両大学共に大学ブランドはいまだに強いんですね。

早慶ともに、志望者が多い人気企業の選考では、早大生同士・慶應生同士の競争を勝ち抜かなければならないという厳しさもある。この場合、大学名だけでは優劣がつかず、「大学時代に何をしたか」が問われることに。

高校生のうちは就職実績ばかりに目を向けるのではなく、「自分は大学で何をやりたいのか」をよく考え、後悔のない大学・学部選びをしてほしい。

 

 

オバタカズユキさん
フリーライター、フリー編集者。教育・キャリア分野の執筆が多く、1999年から『大学図鑑!』(ダイヤモンド社)を毎年刊行している。著書に『早稲田と慶應の研究』(小学館新書)、『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)など。

『大学図鑑!2021 有名大学83校のすべてがわかる!』(オバタカズユキ 監修/ダイヤモンド社)
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