昨夏の全国高校総体(インターハイ)個人総合で同学年トップの成績を残し、昨年度の全日本ジュニア強化指定選手となった鈴木湧(滋賀・栗東3年)=滋賀・守山中出身=。けがの影響で春の選抜大会22位に終わったが、初めての大きな試練を持ち前の明るさで乗り越えようとしている。 (文・写真 白井邦彦)

「本当は大会に出られる状態ではなかった」と栗東体操部の寺田有佑顧問(23)は言う。選抜大会前の鈴木のことだ。

鈴木は昨夏のインターハイで同学年のトップになった。全日本ジュニア強化指定選手になり、選抜大会でも優勝候補だった。だが、冬に痛めた腕の影響もあって個人総合22位に。本人は「もう悔し過ぎる! 結果ではなくて、自分の演技ができなかったことが」と言う。ただ、その表情は意外に晴れやかだった。

学校の成績は学年で上位3人の中に入る。大会会場では鈴木の大きなあいさつが響く。寺田先生が「いい意味でやかましい」と笑うくらい元気だ。

体操を本格的に始めた小学4年から、身近にライバルはいなかった。そんな鈴木の転機となったのが、昨年10月の全日本ジュニア強化合宿だ。「基本はフリー練習だったので、全員が自分のメニューをしていた。でも、一人一人の練習の質が高校とは全く違う。演技のレベルも高いし、無駄がない。刺激を受けました」と鈴木は言う。「それから1本1本を本番と同じ気持ちで取り組むようになった」

寺田先生が就任した2年前から栗東の練習方法も変わっていた。ウエートトレーニング中心の朝練を始めただけではなく、放課後約4時間の練習も本番を想定したものに。他校の多くが1種目を5、6本行って次の種目に移るのに対し、寺田先生は1種目1、2本で次の種目へ移るようにサイクルを変えた。「本番は1発勝負。練習でも1本目に一番いい演技を出すように。だから、多くても1種目2本で次の種目へ。納得のいかない演技だったとしても次の種目へ移ることで、気持ちの切り替えにも役立つ」と寺田先生。くしくも、同じ時期に鈴木は強化合宿で1本1本の重要さを学んでいる。

インターハイまでに鈴木のけがが完治するかどうかは微妙。これからの競技人生を考えて回避する可能性もあると寺田先生は話す。順調な競技生活を送ってきた鈴木にとって、今回のけがは初めての大きな試練だが、鈴木は「(インターハイ)当然、出る!」と声高に、そして笑った。