角皆(つのがい)友晴(千葉・市船橋3年)は、7月30日~8月1日に福岡で開催された全国高校総体(インターハイ)体操男子・個人総合で2連覇を果たし、団体では主将としてチームを3連覇に導いた。世代トップを走る角皆の強みは、うまくいかない時でも前向きに競技を楽しむメンタリティーだ。4年後のロサンゼルス五輪を目指す。(文・小野哲史、写真・西村満)
腰を痛めながらも個人総合・団体で連覇
前回優勝者として臨むインターハイの2週間前に腰を痛めていた。現地入りするまでは安静に過ごしたが、本番の前日練習で再び違和感を覚えた。迎えた団体戦予選で、角皆は「平行棒が終わった後に激痛が来て」、床と鉄棒を棄権せざるを得なかった。
絶体絶命のピンチだった。しかし、角皆は落ち着いていた。「団体はみんなが普通にやれば優勝できると思っていたし、個人も技の難易度を多少下げてやっても、その中でいい演技をすれば優勝できると考えていました。やると決めた以上は、最後までしっかりやり切ろうという気持ちでした」
団体の決勝は、「最終種目の鉄棒ではラストの着地で腰に力が入らなかった」と振り返るように、痛みを抱えながらの試技が続いた。それでも、得意の平行棒で全体1位の得点を挙げるなど、全種目で安定した演技を披露。団体3連覇、個人総合2連覇を達成した。
1年前の自身と比べて、「心にゆとりがありました」という。その要因を「自分は他の選手よりシニアの試合を多くこなしてきたので、それが自信になっていました」と語る。
メニューは自分で考える
中学時代の最高成績は、全国中学校大会の個人総合11位。必ずしも世代トップの選手ではなかったが、角皆は「高校の中では日本一の練習施設。ここで体操したい」と市船橋に進み、大きく飛躍した。
授業がある日の練習時間は、朝7時30分から約50分間と、放課後の4時間ほど。授業がない日は半日練習で、基本的に月曜日は休養日に充てられている。
「朝練習ではストレッチで体を緩めて、倒立で少し力を使います。放課後は種目練習なので、満遍なく取り組みつつ、日によっては『今日はこの種目を多くやろう』と自分で考えて練習しています」
失敗しても暗くならない
新しい技は「上手な選手の動画を見て、いいな、やりたいなと思って挑戦する」ことが多い。新技のチャレンジは当然、何度も失敗を繰り返すことになるが、そこで角皆は「失敗しても暗い雰囲気を出さない」ことを心掛けている。「暗くなると、メンタルにつられて体操のパフォーマンスが落ちるからです」
体操に限らず、どの競技のアスリートでも、練習でうまくいかなかったり、試合で思うようにパフォーマンスを発揮できなかったりすることがある。角皆にもそうした経験はあるが、それらを挫折とは捉えていない。
「演技を振り返って『だめだったな』とがっかりするより、その後の練習でもっとうまくなってやろうという気持ちが湧いてきます」
練習が嫌だと思うことも、「小学生の低学年の頃は何度かあったけれど、今は全くない」ときっぱり言い切る。「技が成功した時はうれしいし、試合で仲間と喜び合えるのが楽しい」と話すように、とにかく体操が好きな様子が伝わる。インターハイも苦しい状況にありながら、主将として、「みんなで楽しくやろう」とチームを鼓舞した。
4年後のロス五輪を見据えて
高校生活は残り半年ばかりとなり、今の目標は11月にある全日本団体選手権だ。シニアの選手も出場するレベルの高い大会だが、角皆は「先輩の橋本大輝選手が高校生だった2018年に5位、19年に6位になって以降、イチフナは上位に入れていないので頑張りたい」と力を込める。
体操を始めて、次第に「オリンピックで活躍したい」という思いが強くなっていった。今年のパリ五輪には惜しくも行けなかったが、日本代表の選考会を兼ねた4月の全日本選手権や5月のNHK杯では、パリで金メダルに輝くことになるシニアの選手たちと堂々と渡り合った。
「全日本は決勝で結構ミスをして、順位を落としてしまいました。『ミスがなかったらパリに行けたかもしれない』と思うと、悔いは残りました。4年後のロサンゼルス五輪は必ず代表に入りたいです」
個人としては近い将来、最高峰の舞台に立つことを見据えつつ、「できる限り長く体操を続けたい」とも話す。体操が楽しくて好き。その気持ちを最大の武器にして、角皆はこれからも理想の演技を追求していく。
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Q&A 好きな食べ物は「スイーツ」
―得意な種目は?
平行棒と鉄棒です。平行棒は技が終わった後の倒立の決めポーズ、鉄棒はダイナミックなところが魅力です。
―オフの日の過ごし方は?
友達と遊びに行ったり、食べることが好きなのでご飯を食べたり。家でのんびりYouTubeを見て過ごすことも多いです。
―得意な教科は?
数学は結構できる方だと思います。暗記系より、正解までにやり方がきちんとある教科の方が好きです。
―好きな食べ物は?
スイーツが好きです。インターハイの帰りに空港で買った栗のお菓子はおいしかったです。
―試合前のルーティンは?
体をゆるめるために朝にお風呂につかります。
- つのがい・ともはる 2006年4月22日生まれ。4歳の頃、祖父の勧めで体操を始めた。2023年世界ジュニア選手権の平行棒と鉄棒の2種目で優勝、全国高校総体では個人総合と団体で優勝。パリ五輪代表を選ぶ今年4月の全日本個人総合選手権決勝進出、5月のNHK杯では9位に入り、存在感を示した。163センチ、59キロ。