話題のアニメ作品への出演を重ねる声優の花江夏樹さん。将来、声の仕事に就こうと花江さんが夢を膨らませ行動したのは高校生のころ。そんな高校時代を振り返ってもらいつつ、高校生記者が緊張との向き合い方や、失敗した時の心構えを聞いた。(取材=高校生記者・川元優輝)

 

高校2年で声優になる決意、不安はなかった

―高校生活で印象に残っている思い出はなんですか?

僕が通っていた高校の一大行事は体育祭だったんです。

生徒は、体育祭の出し物で披露するダンスの練習を夏休み中に取り組むんですよ。夏休み、クラスの仲のいい友人たちと楽しくダンス練習に励んだのが思い出深いですね。体育祭本番もとても盛りあがりました。

―花江さんが声優を目指したのは高校生の時ですね。

はい。高校2年生の時です。

大学に進学して卒業後に就職する……そんな将来のビジョンが、高校生だった僕にはピンとこなかったんです。アニメが好きで声優になろうと決めてからは、高校生活と並行して自分の声を仕事にするための準備を始めました。

―「本当に声優になれるかな?」と、不安な気持ちにはなりませんでしたか。

僕の性格なのかも知れませんが、当時はそういう不安はなかったんです。不安を感じる前にとにかく行動してみようって考えていました。

実際、高校時代に小説や漫画の音読を繰り返し、声優になるための練習をしていましたし、そんな将来の夢に向かって取り組む自分に、全然根拠のない「謎の自信」があったんです。

緊張するのは悪いことじゃない

―高校生は、部活の大会や発表などで、舞台に立つ機会が結構あるんです。「緊張して力が発揮できない」なんて声もよく聞くのですが……花江さん、高校生に助言をください。

僕自身がどうしようもなく緊張する時は、自分の中で練習や準備が足りないと自覚している時なんですよ。

なので、本番を迎えるまで自分がどれだけ練習するか、たくさん経験を積めるかが大事なんです。その努力が緊張を和らげてくれるはず。

とはいえ僕は、心の中がドキドキ、ワクワクするような「良い緊張」状態で本番に臨むことがあります。緊張することは悪いことではありませんよ! 「良い緊張」の状態に自分を持っていけるかが大事ですね。

失敗しても反省「だけ」しない 頑張れたところも振り返る

―テストで悪い点を取ったり、部活の大事な試合でミスをしたり……失敗して落ち込む高校生が多いです。花江さんは失敗すること、ありますか? 失敗した時に気持ちを立て直す方法を教えてほしいです。

僕の場合、よっぽどの失敗だと2・3日は引きずりますが……寝るとわりと前向きな気持ちにリセットできるタイプ。だからぐっすり眠るのが一番の立ち直り方だったりします(笑)

でも失敗した時、自分の行動を整理したり、次どうすればいいかと考えたりと、反省はします。声優の仕事は、お芝居に正解はなく、競技スポーツのように勝敗が明確な世界ではありません。

自分が「納得できるところ」はきちんと反省する。自分が「こう」と思った部分は曲げない。全否定はつらいので「この部分は頑張ってた」「ここは自分の良いところだ」ということも、反省点と合わせて考えるようにしていますよ。

 

かわいい飼い猫に癒やされ中

―長編アニメ映画「泣きたい私は猫をかぶる」で花江さんが演じた中学生・日之出君の声は、どんなイメージで作り上げていったのでしょうか。

今作はアニメではあるのですが、台本を読んでみると、実写のような雰囲気のある作品だと感じました。普段は演じるキャラクターに合わせて自分の声をデフォルメしてお芝居をするのですが、日之出君の声は、僕が普通にしゃべっているような現実感のある声の方が合っているんじゃないかと考えて、アフレコに臨みました。

―アフレコ時、監督から「あまりかっこつけない感じで」とリクエストされたシーンがあったそうですね。

ふとした瞬間に声のトーンが低くなったり、いかにもなアニメのキャラ声になってしまったりすることがあったんです。そんな時、かっこいい感じの声になってしまい、何回か録り直しをしました。

日之出君は、人にはっきりと物事を伝えられないナイーブな性格の持ち主なので、未熟な部分のある男の子をイメージしながら自分の芝居を修正しました。

―今作で気になるキャラクターを教えてください。

今作で僕が気になったのは、三木眞一郎さんが演じられている猫。(見た目が)シュッとしてかっこいいんです。僕は、メインキャラクター以外の声優は誰なのか知らない状態で完成作を見たのですが、その猫の第一声を聞いただけで、三木さんだ、かっこいいなーって思いましたね。

―花江さんも自宅で猫を飼っていますね。

はい、飼っています。おいでって言っても来ない時もあるし。呼んでない時に来ることもあるし。そんな自由で気まぐれなところが猫のかわいいところです。癒やされますね。

(構成=中田宗孝)

日常生活Q&A ペン・鼻炎スプレー・目薬がマストアイテム

Q.最近の癒やしはなんですか?

A.漫画、アニメ、ゲームのどれかに1日1回は触れることです。声優という職業柄、これらの作品から何かを吸収することは勉強にもなるんです。特に最近は外出を控えて家で過ごす時間が長かったので、今まで多忙で取れなかったインプットの機会をつくれました。

Q.喉をケアする方法は?

A.マスクは常日頃しています。ちょっと喉の調子が良くないなと感じたら、ハチミツや飴を舐めてケアします。

Q.いつも持ち歩くアイテムは?

A.僕は台本にいろいろ書き込むので、ペンは必ず持っています。あとは、鼻炎持ちなので……鼻炎スプレーは必須です。意外と目が疲れるので目薬も持ち歩いています。

Q.今後、挑戦したいことはありますか?

A.この質問をされた時は「ないです」と答えているんです。声優の仕事に真摯(しんし)に向き合い、目の前の仕事を一つ一つ全力で取り組むことが大切だと思っています。その先に、思わぬ仕事の依頼をいただいたり、自分のやってみたいことが思いついたりすると考えています。

取材後記 僕も自分の仕事に誇りを持ちたい

プロの声優としてどんな時でもひたむきに努力し続けていることや、演じる役や自分と熱心に向き合っていることを伺い、本当に真面目な方なんだなと改めて思いました。

高校時代から自分の目標に向かってまっすぐ進んでいた姿や、チャンスが来たときの為にかかさず準備している姿はとても参考になりました。なにより、声優という職業を心から楽しんでいる思いが伝わってきました。僕も将来、自分の仕事に誇りを持てるように頑張りたいと思います!

初インタビューだったので緊張しましたが、花江さんがフランクに受け答えをしてくださったので、とても話しやすかったです。

花江さん、お忙しい中ありがとうございました!(高校生記者・川元優輝=3年)

花江さんにオンライン取材をする川元君

はなえ・なつき

1991年6月26日、神奈川県生まれ。2011年、声優デビュー。声の出演作は、「鬼滅の刃」(竈門炭治郎役)、「東京喰種トーキョーグール」シリーズ(金木研役・佐々木琲世役)、アニメ「四月は君の嘘」(有馬公生役)など多数。子供向けテレビ番組「おはスタ」(テレビ東京系)ではメインMCを務めている。

「泣きたい私は猫をかぶる」

 

自由奔放な言動を繰り返す笹木美代(声:志田未来)は、友人たちから「ムゲ(無限大謎人間)」というあだ名で呼ばれる中学2年生。ムゲは、一方的に好意を寄せるクラスメートの日之出賢人(声:花江夏樹)に猛アタックするが相手にされずにいた。そんなある日、猫に変身できる不思議なお面を手に入れたムゲは、猫の姿で日之出に接近を試みる。

6月18日より「Netflix」にて全世界独占配信。

(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会