一人一人の思いを、いま

立命館慶祥高等学校 角島さくら

 

 「なんでお父さんなの、なんで今なの、おかしいよ。」誰にも言えずにいた思いが溢れ出した瞬間。中学1年生の春、母の口から告げられたのは父ががんだということ。その時から徐々に不安が私の中に募っていきました。しかし、そんな自身の思いを話せる相手はいません。私の誰にも言えなかった気持ちは、ある時ひどい言葉に変わり、それを母にぶつけてしまったのです。

 

「がん」。みなさんはこの言葉にどんなイメージを抱きますか。多くの人が「死」、「不治の病」など暗い印象を持つかもしれません。この病は今、医療技術の進歩により、早期発見であれば完治することもあります。それでも、診断を受けた人やその家族は大きなショックを受けるのです。私もまたその一人でした。みなさんは、2017年6月に乳がんでこの世を去った元アナウンサーの小林麻央さんを覚えていますか。麻央さんの家族は闘病中の彼女を献身的に支え、メディアの前では笑顔を見せていました。しかし、姉の麻耶さんは、看病による精神的疲労により倒れてしまうなど、笑顔の裏では、つらい生活を送っていたことも伺えます。麻耶さんは当時のことを「相当気持ちを押し殺していた」と語っています。患者はもちろんのこと、支える立場の家族も、弱音を吐くことが難しいのです。

 

現在、がんと関わる人への支援が多く行われています。例えば、臨床心理士による心理カウンセリングや、患者やその家族のコミュニティなどが作られています。がん相談センターをもつ病院もあり、この病と関わる人への精神的なサポートに目が向けられているのです。こういった支援を実際に利用しているのは20代以上の人が多いそう。子ども専門の支援を行っている団体もありますが、学童期の小さな子どもを対象としているものが多く、10代への支援はほとんど行われていないというのが現状です。その一方で、がんの親をもつ10代の数は3万人以上。札幌医科大学でがん相談サロンを行う臨床心理士の米田さんはこうおっしゃいます。「お子さんを持つ患者さんには、子どもへの伝え方や接し方について相談されることが多いんです。」患者である親は、子どもの精神状況をとても心配しています。抗がん剤の副作用など苦痛を伴う場合もあるこの病。苦しみと闘う患者と、1番近くで支えるパートナーとは違い、子どもはどうしてもできることが少なく、見ているだけになってしまう。それにより、「家族は頑張っているのに自分が弱音を吐いてはいけない」と思い、同じような苦しい状況にいる家族に、本当の気持ちを話せないことがあるのです。

 

札幌市にあるがん患者会「ひだまりサロン」。がん患者や家族の交流の場として、誰でも気軽に立ち寄れるような場所を作りたい、という願いからできたものです。ここでは患者本人の体験談や、患者を支える家族の悩みなどを話し合うことができます。同じ体験をした人に相談したい、不安や悩みを乗り越えた人に元気をもらいたい。ここへ来る人の目的は様々ですが「誰かに話したい」という気持ちは同じです。その気持ちは、10代の子どももまったく一緒。しかし、ひだまりサロンをはじめとする多くのコミュニティは大人が対象となっています。がんの親を持つ10代にも「ひだまりサロン」のような場所が必要なのではないでしょうか。

 

私は10代の子ども限定の「がん家族コミュニティ」を作りたいと考えています。心が不安定な10代だからこそ、支援が必要です。同じ年頃で似た状況の者たちだから、話しやすい共感できる、といったことも多くあることでしょう。子どもへの支援を行うことは、その家族も元気にすることができるのではないでしょうか。自分が思っていること悩んでいることを話したり、励ましあったりすることで、同じ立場の人と思いを共有し、「自分は一人じゃない」と感じられる。そんな場所を私は作りたいのです。このコミュニティで、1人だけで抱え込んでいた様々な思いを話すことで、少しでも前向きになれたら、そう思っています。

 

父のがんが宣告されてから、5年経ちました。一番辛かった時、私は話をできる相手が欲しかった。同じような気持ちを抱える人を救いたい。行き場のない悲しみや不安と闘う、彼らに伝えたいのです。「あなたは、1人じゃないよ」と。