中国・武漢市が発端とされる新型コロナウイルス感染症は世界的大流行に拡大、世界保健機関(WHO)は3月11日、パンデミック(世界的大流行)とした。各国で休校やイベントの自粛、飲食店の閉鎖、入国制限などが続き、市民生活が大きな影響を受けている。(2020年3月30日時点の情報による)

世界中に拡大、東京五輪・パラは来年に延期に

Q 世界でどれくらいの国に感染者が広がっているの?

A 当初の感染者はアジアが中心だったが、その後に中東や欧米にも拡大した。米ジョンズ・ホプキンズ大の3月29日までの集計によると、感染者数は世界170カ国・地域以上で70万人を超え、死者は約3万3千人に達した。

感染拡大を受けて、国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)は、今年夏に予定していた東京五輪・パラリンピックを来年夏に延期すると決めた。五輪は来年7月23日、パラリンピックは来年8月24日に開幕する予定だ。

発熱にのどの痛みなどの症状、軽症者が気づかず感染拡大する恐れも

Q どんな病気なの?

A 新型のコロナウイルスが原因の感染症だ。これまでに知られているコロナウイルスのうち4種類は風邪の原因の10~15%を占める。今世紀に入ってから重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)、中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)を発症する新型が現れた。今回のコロナウイルスは7種類目とされる。

1~14日間の潜伏期間を経て発熱やのどの痛み、せき、倦怠感を生じ、一部は肺炎となり重症化する。高齢者や持病のある人が発症しやすいが、無症状や軽症の人も多く、気付かずに感染を広げて拡大防止を困難にしている。

「閉鎖空間」「人が密集」「近距離の会話」を避けて

Q 日本ではどうして広がった?

A 日本国内で初めて感染が確認されたのは1月中旬、武漢市に渡航歴がある中国人男性だった。横浜港に停泊したクルーズ船で700人を超える集団感染が発生。その後、北海道で感染が急増し、感染経路が分からない例が出現した。国内発生の段階に入り約2カ月で全国に広がった。

Q 感染拡大を食い止めるには?

A 現在、問題になっているのが、ごく一部の感染者が多くの人に感染させて集団感染を引き起こす「クラスター」だ。厚生労働省は国立感染症研究所などを中心とした対策班を設置し、クラスターの発生源を把握し拡大の連鎖を絶つことを重点目標としている。

政府の専門家会議は①換気の悪い閉鎖空間②人が密集する場所③近距離での会話―の3条件が重なる場所でクラスターが発生しやすいと分析。その例としてライブハウスやスポーツジムなどを挙げ、注意を呼び掛けている。

集団感染を防ぐには、「密閉空間」「密集場所」「密接場面」の「3つの密」を避けるよう、厚生労働省などは呼び掛けている(首相官邸のウェブサイトから)

「手洗い」「せきエチケット」が有効

Q 一人一人ができる感染防止策は?

A 新型コロナウイルス感染症はワクチンや特効薬がない。新薬の開発には時間がかかるため、抗エイズウイルス(HIV)薬や気管支ぜんそく薬など既存の薬が試みられている。

予防には一人一人の行動が大切だ。

主要な感染経路はせきなどで飛び散るしぶき(飛沫)を吸い込む「飛沫感染」、ウイルスが付いた手で目や鼻、口に触ることによる「接触感染」とされる。

飛沫感染は症状のある人から2メートル以上離れること、接触感染は手洗いでリスクを減らせる。感染症専門家が特に重要だと強調するのが手洗い。手をぬらして泡立てたせっけんで20~30秒かけて指先から手首の隅々までよく洗うことが必要という。

また、せきやくしゃみなどの症状がある場合はマスクを着けて飛沫をまき散らさない「せきエチケット」も必要だ。

感染症対策の基本は「手洗い」と「マスクの着用を含む咳エチケット」だ(首相官邸のウェブサイトから)

WHOは「パンデミック」使い慎重対応を求める

Q 「パンデミック」とは?

A パンデミックとは、「全ての」を意味するギリシャ語の「パン」、「人々」を意味する「デモス」が語源。世界中に広がる可能性がある病気が制御不能で大規模に流行している状態を指す。現行規定で「パンデミック宣言」を行うのはインフルエンザだけだが、WHOは欧米で一般的な「パンデミック」という言葉を使うことで深刻な事態と慎重な対応を求めた格好だ。

Q 最近のウイルス感染症にはどのようなものがあるの?

A 重症急性呼吸器症候群(SARS)は02年11月から03年7月に流行、8096人が感染、774人が死亡。中東呼吸器症候群(MERS)は12年9月から中東地域を中心に流行、約2500人が感染し約860人が死亡した。また09年には新型インフルエンザウイルスによる感染症が流行し、WHOは同年6月にパンデミック宣言、10年8月に終結宣言を出した。

(共同通信編集委員 遠藤一弥)