12月28日、第72回全国高校バスケットボール選手権(ウインターカップ)女子決勝が武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京)で行われ、桜花学園(愛知)が昨年度大会王者の岐阜女子(岐阜)を破り、3年ぶりの優勝を果たした。ウインターカップの優勝回数は、今回で22回目。日本代表やトップリーグに多くの好プレーヤーを輩出し、「高校バスケ界の女王」として広く知られる桜花学園(愛知)だが、今大会で手に入れた金メダルには、例年とは少し異なる”重み”があった。(文・青木美帆、写真・幡原裕治)

深夜の話し合いで号泣

今年の桜花学園の3年生は、ウインターカップの優勝どころか決勝の舞台すらも経験していない。

1年時の同大会は準決勝敗退。インターハイと国体で優勝した2年時も、準々決勝で会場を去った。

「自分たち下級生のせいで負けたようなもの」と岡本美優(3年)が振り返る2年時のウインターカップ後、選手たちはミーティングを実施。「学年関係なく言い合えるチームになる」「練習試合を含めて1試合も負けない」という目標を立てて、気持ちを高めた。

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ところが、2月の東海大会決勝で、チームは岐阜女子(岐阜)に敗北。さっそく目標が絶たれた。どん底に落ちた選手たちはその晩、再びミーティングを行い、学年や出場時間などの垣根を超えて、互いの弱みや課題を指摘し合った。

「夜の1時とか2時くらいまでやっていたと思います。みんな号泣でした」。岡本がそう振り返るほどの激しいミーティングを経て、チームはようやく結束。誰かが厳しい声をかけたら、別の誰かが「次のプレーは頑張ろう」といった言葉で盛り上げる。全員がチームのことを考え、助け合う気持ちが強さとなり、インターハイ決勝では岐阜女を相手に快勝を果たした。

岡本美優

チームの雰囲気作りに苦戦

キャプテンの平下愛佳(3年)も、苦労した。

1年次から主力を務めてきたスーパースターは、バスケ人生で初めてキャプテンに就任。チームメートを気遣いながら自分のプレーをまっとうすることに苦労し、井上眞一コーチには何度も「お前のリーダーシップが足りない。チームの雰囲気をしっかり作れ」と、プレー以外の面で怒られてきた。

「キャプテンとしてまだ足りていないところが多い。助けてほしい」

前述の東海大会後のミーティングでは、泣きながらそう打ち明けた。仲間たちに「助けるから、ルー(平下の愛称)ももっと成長して」と励まされた。

翌日には井上コーチに電話をかけ、「チームのことは自分たちが責任をもってやります。先生はプレーのことだけに専念してください」と宣言。過去の試合映像を見返し、歴代のキャプテンたちがどんな振る舞いをしているかを学ぶなど努力を重ね、自らの意思で少しずつキャプテンらしさを身に付けていった。

平下愛佳

試合直前にスランプに

ウインターカップ本戦は、準決勝までの4試合すべてで90点越え。順調に勝ち上がっているようで、実はチームは混乱していた。

平下、岡本のスタメン3年生コンビが12月初旬からスランプに。直前の練習試合では予想外の相手に敗北を喫した。

激しくぶつかり合う

平下は「勝ちたいという気持ちをうまく表現することができなかった」と当時を振り返るが、準々決勝の精華女子(福岡)戦でようやく吹っ切れることに成功。宿敵・岐阜女子との決勝では、リベンジに燃える相手の仕掛けに何度も流れを奪われそうになったが、そのたびに2人が強気のプレーで流れを引き戻し、喜びの瞬間を迎えた。

夢の舞台に立ち「最高」

3年間でようやくたどりついたウインターカップ決勝を、岡本は「夢の舞台だった」と感慨深げに語る。平下は表彰台で高々と優勝カップを掲げながら「ウインターカップの優勝って、やっぱり最高なんだな」と実感した。

江村優有

優雅に水面を進む白鳥が、見えないところで必死に足掻いているというのは有名な話だが、今年の「女王」にも同じことが言えたのかもしれない。誰よりも泣き、悩み、励まし合ってきたことで、彼女たちは横断幕に掲げられた「爽やかに、たくましく、そして華麗に」を体現するバスケットを展開し、花のような笑顔を咲かせた。

喜びに湧く桜花学園
【チームデータ】
1955年創部。部員26人(3年生9人、2年生9人、1年生8人)。卒業生に高田真希(デンソー)、渡嘉敷来夢(JX-ENEOS)など。近隣の出身者を含めた部員全員が寮生活を行い、チームワークを高めている。
桜花学園のメンバーたち