教育学部は、基本的に学校教員の育成を目的とした教員養成課程で、卒業と同時に、教員免許が取得できます。教員になるためには具体的にどのようなことを学ぶのか、教育学を学ぶことでどのようなことが身につくのかを、東京学芸大学副学長の佐々木幸寿教授に聞いた。(安永美穂)
理想を信じる気持ちを
――教育学部に向いているのは、どのような人でしょうか?
人間に興味があり、目先の「できる」「できない」ということのみにとらわれずに、「どんな人でも成長できる」という理想を信じられる人が向いていると思います。また、教育は地域に根差した活動でもあるので、「地域のために尽くしたい」という気持ちがある人にもおすすめです。
「素晴らしい先生と出会えたおかげで楽しい学校生活を送れたので、自分もあの先生のようになりたい」といった、小・中・高校での良い思い出がある人が教師を志すケースが多いのですが、「自分は学校のこういうところに不満を感じていたので改善したい」という問題意識を持っている人の視点も、日本の教育をより良くするためには大切だといえます。
学校生活に「なぜ?」の視点を
――教育学部を目指したい高校生が今から身につけておくと良いことはありますか?
友達、先生、部活、教科の学習など、学校生活のさまざまな面への興味を大切にしてほしいと思います。面白い授業をする先生がいれば、「この先生の授業はなぜ面白いのだろう?」と考えてみたり、「なぜ、古文を勉強するのだろう?」と、それぞれの教科を学ぶ意味を考えてみたりするのもよいでしょう。古文であれば、ただ古語にふれるだけではなく、日本の伝統文化や日本人のメンタリティを身につけることが学ぶ意義であるといったことにも目を向けてみると、学ぶということをさまざまな角度からとらえられるようになるはずです。
また、映画を見たり、小説を読んだりして、一途に生きる人間の美しさに触れることも、人間そのものに対する興味を深める上で役立つでしょう。人間には善悪さまざまな面があるものですが、そういった点も全て含めて、人間というものを前向きな視点から見つめられる人になってほしいと思います。
専攻以外の科目もしっかりと
――高校での学習内容は、教育学部での学びとどのような関連があるのでしょうか?
各科目の知識が大学での学びの基礎となるため、自分が専攻する分野以外の科目もしっかり学んでおくことが重要です。教師になれば、担当教科は社会でも、自分が担任しているクラスの数学が苦手な生徒に学習法のアドバイスをするといった場面もあります。専門科目以外の知識もあると、そのような場面にも対応でき、教師としての仕事の幅が広がります。また、「苦手科目があったけれど頑張って勉強した」という経験をしておくこと自体が、勉強が苦手な子どもの気持ちを理解するうえで強みになるといえるでしょう。
教師の使命や役割の理解を
――教員を目指す高校生にメッセージをお願いします。
教育基本法では、教育とは「人格の完成」をめざすものだということが明記されています。「人格」という、人間の最も根本にあるかけがえのない部分に関わることが許される職業というのは、教師をおいて他にはないでしょう。
また、教育基本法には、教師は「自己の崇高な使命を深く自覚」する必要があるとも書かれています。法律用語において「崇高な」とは滅多に使われることのない異例の表現です。教師とはそれほどまでに尊い仕事なのです。教師を目指す皆さんには、ぜひ教師ならではの使命や役割をしっかり理解した上で、将来、活躍してほしいと思います。
佐々木幸寿教授(東京学芸大学副学長)
ささき・こうじゅ
水沢高校(岩手)卒業。東北大学経済学部卒業。東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専攻は学校法学、教育行政学。岩手県内の公立高校で地歴・公民を教え、野球部の監督を務めた経験を持つ。