東京1位でインターハイ出場権を手にした実践学園(東京)。昨年冬の選手権大会で創部初のベスト8を達成し、6月の関東大会でも初優勝を果たしているが、実は練習環境に決して恵まれているとは言えず、選手の身長も高くない。これらのハンディを上回るカギとなるのが「スピード」と「パスの目」。去年の先輩たちより高い場所を目指す、実践学園の夏の挑戦が始まる。(文・写真 青木美帆)

崖っぷちからつかんだ出場権

東京都のバスケのインターハイ出場権は、上位4チームで争われる決勝リーグの上位2チームに与えられる。予選最終日を迎えた実践学園の戦績は1勝1敗。成立学園との最終戦に負けたらインターハイ出場が絶たれる崖っぷち状態だったが、選手たちは強気だった。試合前の円陣で「よっしゃ、勝とう。勝つしかない!」とお互いを高め合い、ティップオフを迎えた。

ガードの井川。中学時代に実践学園中と対戦し、「このチームでプレーしたい」と感じたという

相手は2メートル超の留学生選手を擁し、その高さを武器に試合を展開。最長身190センチ、留学生不在の実践学園は個人でなくチームでそれを守り、得意の速攻につなげた。互角の展開が長く続いたが、留学生選手に疲れが見え始めた第3クオーター終盤が、実践学園にとっての突破口となった。鮮やかなパス回しとスピーディーな展開で流れをつかみ、一気に点差を広げた。

最終スコアは73-67。「負ければ終わり」というところまで追いつめられていたチームは得失点差で他のチームを引き離し、東京1位でインターハイの出場権を手に入れた。

五島大成主将(3年)は閉会式の後に、「ほっとした」と大会を振り返った。決勝リーグ2日目、自らが打ったシュートが外れてチームは敗れ、思わず涙があふれた。試合後は他の選手たちもひどく落ち込んだ様子だったが、見かねた近野零士(3年)が1人ひとりに「明日は切り替えてがんばれ。鹿児島に行こう!」とライン。「すごく助けられて、最終戦は入りからいい形でプレーできました」と五島は笑顔を見せた。

練習場所も時間も限られ

昨年冬のウインターカップ(全国高校バスケットボール選手権)で創部初のベスト8入り。6月の関東大会でも初優勝を飾るなど、近年めきめきと実力を付けてきた実践学園だが、決して環境に恵まれたチームではない。高瀬俊也コーチも「普通の環境で普通にやっているチーム」と表現する。

平日に体育館が使えるのは2、3日。他の部活との兼ね合いや完全下校の時間を踏まえると、バスケットボールコートを使った実戦練習を行えるのは1時間半程度にとどまる。全国には、専用体育館で早朝から夜遅くまで自主練習可能な強豪校もあるが、「自主練なんてめったにできない。全国に出ているチームの中で、もしかしたら一番練習量が少ないかも」と主将の五島は話す。

入学時から心身ともに大きな成長を遂げた堀内

そのような環境の中でも強さを発揮できるのはなぜか。山口浩太郎(3年)は「選手1人ひとりの実力が高いので、負けたくないという思いで練習するから」と明かす。併設の実践学園中は、数度の全国優勝を誇る強豪校で、今年の高3と高1の代で全国制覇を果たしている。経験と実力を備えた持ち上がりの選手に、高い志を持った外部入学者が融合することで、より高いレベルの切磋琢磨(せっさたくま)が生まれる環境が育まれている。

この環境の恩恵を受けて、入学時には想像できなかったほど成長した選手もいる。副キャプテンを務める堀内海利(3年)だ。東京都選抜など実力者がそろう外部入学者の中で、堀内の中学時代の最高成績は「都大会で2回戦負けくらい」。高いレベルでバスケをやってみたいとの思いで親を説得し、3年生でベンチ入りという目標を掲げて入学した。

当初は同級生たちに「手も足も出なかった」と振り返るが、仲間たちに追い付きたいという本人の必死の努力と、高校3年間で20センチ以上という急激な身長の伸びも手伝って、2年冬の新人戦後にスタメンに抜擢。現在は力強いリバウンドでチームをもり立てる、チームに欠かせない選手となっている。

小さなチーム、パスに強み

今年の実践学園のスタイルは、部の伝統である「勤勉なディフェンス」と、速攻、アウトサイドを起点としたオフェンス。山口や井川広登(3年)といった1対1の能力に優れた選手がきっかけをつくり、そこに他の選手たちが絡んでいく。

関東大会の都予選からは、苦しい時間に我慢できる粘り強さも備わってきた。高瀬コーチは「中学時代に優勝している分、『高校でもまた勝てる』という根拠のない感覚でいる選手も見受けられました。試合を重ねるごとに大人になり、『一生懸命やればいいことがある』ということが感覚として分かってきたのかもしれません」と分析する。

さらに高瀬コーチは選手たちのパスの能力についても言及した。「今年の選手たちは『パスの目』がいいと言いますか、他の選手たちが走り込んで来た所にいいパスを出せるし、パスに合わせて走り込める感覚を持ち合わせているのは強みです」

留学生を擁するチームと対戦すれば、普通にゴール下でシュートを打っても簡単にブロックされてしまう。パスと移動でディフェンスを惑わせ、ノーマークをつくり出して簡単なシュートを決める。これは実践学園に限らず、サイズの小さなチームの生命線とも言える考え方だ。

インターハイにシード校として臨む実践学園

練習外でも「タピオカ」飲み結束

また、選手たちが胸を張るのが、1年生から3年生までをひっくるめた仲の良さだ。「盛り上げ役、ツッコミ、天然、ボケてるのに相手にされないやつ(笑)。3年生がすごくキャラが立っているし、生意気な下級生たちがそれに遠慮なく乗っかってくる感じです」と五島。3年生の結束力も高く、練習がない時はタピオカドリンクを飲んだりチーズタッカルビを食べたりと、和気あいあいと過ごすことが多いようだ。

代替わりをした今年の年頭、チームは先輩たちを超える「全国べスト4以上」という目標を掲げた。シード校として挑むインターハイでも当然、これを狙っていく心づもりでいる。「僕らの練習場所を確保するために、付属中や他の高校にも協力してもらっています。そういうことへの感謝の気持ちも込めて、インターハイに臨みたいです」。五島はそう抱負を語った。

チームデータ

1927年創部。部員50人(3年生19人、2年生10人、1年生21人=マネジャー4人含む)。「規律」をモットーに、「さわやかな挨拶」「礼儀正しい態度」「いつでも愛想よく」を強いチームになるための要素として掲げている。