木工職人や林業家、漁業家……高校生が普段ならなかなか接することのない日本の職人たちとの出会いでどんなことに気付くのか。そうした森や海、川の名人に取材し、文章にまとめる「第17回聞き書き甲子園」(実行委員会主催)に参加した高校生を紹介する。(中田宗孝)

漢方の原料になる「おうれん」

漢方の原料の植物栽培に密着

細川詩月さん(福井・藤島高校2年)は、「普段の生活では出会うことのない名人の話が聞ける。きっと面白い体験ができる!」と直感し、応募を決めた。

彼女は、自身も暮らす福井県で漢方の原料となる植物「おうれん(黄連)栽培」に従事する加藤好昭さんへの聞き取りを行った。加藤さんの仕事場を訪ねて感じたのは、自然の豊かさ。「福井にこんな大自然に囲まれたところがあるなんて。時々、行きたくなる場所になりました」(細川さん)

幸せだと思える仕事に就きたい 

「森の名人」の加藤さんは、地方公務員を早期退職して、おうれん栽培をしていた両親の仕事を引き継いだ。現在は、県下一の生産量を誇り、年間約200キログラムのおうれんを各地へ出荷している。

昨年、2日間にわたり、加藤さんの生い立ちを聞きながら、その仕事ぶりを聞き取りした。機械の使えない山中で栽培しているため、土を耕すのも雑草をむしるのもすべて手作業で行う。そんな重労働にも関わらず、楽しそうに仕事に励む加藤さんの姿が細川さんの印象に残った。「『この仕事に就けて幸せだ』と話してくれました。そう感じて仕事をする人ってなかなかいないと思うんです。私も将来、幸せだと思える仕事をしたいと考えるようになりました」

豊かな自然の中で働く喜びを実感

加藤さんへの聞き取りを文章にまとめ、細川さんがもっとも心に響いた「僕ら自然ばっかし相手にしているから。いっつも自然のなかにいるから」という名人の言葉を作品タイトルにした。

細川さんの聞き書き作品を読んだ加藤さんは、「タイトルにハッとさせられた」という。「風の吹く音や鳥の鳴き声といった自然を満喫しながら僕は仕事をしているんだなと、彼女の文章を読んであたらため感じ直すことができました。ありがとう」(加藤さん)

細川さん(左)と加藤さん(2019年3月撮影)